天高くから鳥が大きく一声鳴いた。きっと先程宙を力強く飛んでいた鳶だろうと思い、私は有り得ない程に長閑な辺り一面緑という周りの景色から視線を再び真っ青な空へと向けた。

案の定、私の瞳には先程と同じようにくるくると飛び続ける鳶の姿が捕らえられた。どこまでも青く続く空に小さく出来た黒いそれは、さんさんと輝く太陽を遮る。白い光に出来た影をまるで追うかのようにくるりくるりと視線を回る鳶に合わせて巡らせる。まるで天を大きく仰ぐかのようなその姿に暫く魅入っていた私だったが、段々と首が疲れ気怠くなってきた。自分に正直な私はその意思に忠実に従い、鳶から目線を外すとゆっくりと首を下げた。

しかし観察を中断したのはいいのだが、どうやら私の判断は一足遅かったらしい。なんだか気持ち悪くなってきた気がする。いや違う、既に気持ち悪い。首もずっと上へと傾けていたせいか、うなじの下あたりが痛い。そうしていると、此処が痛い。あそこが痛いとなってくるのが落ちなので私はその思考を切り替える為「止め止め、」と小さく呟きながら首を左右へふるふると振る。

するとどうだろう。傾けた私の首からごきりとまるで漫画やアニメのような鈍い音が鳴った。勿論、鈍い音の発信源である首は小さな痛みを訴えた。だが、あまりにも。もう清々しい程気持ちよく鳴った自身の首。思わず山本君家で読んだ漫画のある台詞が思い浮かんだ。


「んんー、エクスタシー」


私は言った途端直ぐさま自身の口を手で勢いよく塞いだ。駄目だ、駄目だ。どうやら私はまだパニック状態から開放されていないらしい。だって現に山本君家で読んだ漫画のある部長の台詞をはいてしまっている。しかもどうしてか。私が言っても違和感がなさすぎるではないか。なんか、怖い。いや、前々からなんとなく私達双子と彼はどこか似通っているような気がしていたのだ。額に手を宛てがう指のバランスとか、少々含んだような笑いとか。きっと彼がクフフ、と言ったって私同様違和感なんかないだろう。

ゆるゆると頭でくだらない考えを膨らませながらも、現実では懸命に自身の体の傷と格闘していた私は、なんとかふらつく体を持ちこたえ根性で立ち上がった。多分先程までが生まれたての子羊で、今は二足歩行を始めた幼児と言った感じだろう。

取り敢えずしっかりと立ち上がることの出来た私は、一先ず人捜しをすることにした。正直、面倒臭いことこの上ない。だがしかし、そのままという訳にもいかないのだ。何故ならようく周りを見れば分かる。
後ろはまるでトトロに出て来るような大木。前を見れば緑が青々と茂り広がり、こちらはまるでからからと首を鳴らす不気味な森の精霊が住み着いていそうな森。左を見れば遠くに山が見え、右を見れば同じく遠くに山が見える。

そして足元は左右を一直線に繋ぐ土の道。リアルでこぼこ砂利道だ。こんなオプションいらない。本当勘弁して欲しい。私は好き好んでこんな傷の負担にしかならないような道をどんどん行ける奴の気が知れないと思った。だが、私にはもはやこの道を歩くと言う以外の選択肢はない。それに僅かだがこの道を辿った遠くの方から人の気配がする、…気がする。残念ながら私には超直感という便利な直感はないので、予め人間誰しも備わっている勘に頼るしかない。

こんな、一般人より裏社会という犯罪に手を染めた為ちょこっとだけ鋭くなった勘に頼った所で結果は目に見えているのだが、もうこれ以外私には手段が無い。私は自身の本能的勘に従い、横に続く一方道を歩き始めた。因みに方向としては左から右。これは単に私が右利きだったからと言う、なんとも単純な決め方だった。


見上げれば空は
いつもある




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