何となく自身の現状は理解したけれど、周囲の様子がまるで分からない。今分かっていることをあげるとしたら、この目の前に雄大に広がる清んだ青空のみ。取り敢えず起きなければどうにもならないし、何も始まらないことが分かった。が、無茶ぶりも大概にしてほしい。こんな重傷じゃ無理に決まってるだろう。一瞬、過ぎった人間道という選択は先ず捨てることにした。戦闘力を上げてどうしろというのだ。

取り敢えず最終手段くらいにしようと別の案を考える為に頭を捻れば、ふと浮かんだ疑問。一体私に何が起こったというのだろうか。という単純明快かつ1番重要であろう疑問。未だに解決されていないものだった。考え込みそうなことだった為、楽な体勢へと切り替れば私の視線は澄み切った空へと向いた。ゆっくりとそれでいて慎重に思考を巡らせていく。


「……、鳶…」


くるりくるりと器用に弧を描き、まるで円をかくかのように空を飛びつつけるそれが妙に力強く見える。私どうしたんだっけ?と、えらく単純な疑問を自身に投げ掛け、朧げな記憶を辿る。数多くのシーンがごった返す脳内から的確な、出来るだけ一番真新しい記憶を探る。


「見付けた」


空を見たまま小さく呟く。確かに掴んだ記憶を見失わないうちに一気に引き抜けば行き着く先は一つの糸口。リング争奪戦という答え。それはつい最近始まったボンゴレの大規模な内戦だった。そこで私は一つの大きな矛盾点に気が付く。だって、戦っていた。私は、確かに戦っていたんだ。私の片割れと共に、ボンゴレファミリー霧の守護者として、相手であるヴァリアー霧の守護者であるアルコバレーノと。

だが此処で新たな疑問が生じる。私達はほぼ無傷に近い状態でアルコバレーノに勝利した。その筈…なのに、今の私はどうだろうか。少しばかり動かせば生じる無数の痛み。所々裂けている制服には自らの血が付着している。


「可笑、しい…っ何故?」


焦りが生まれ私は必死になって記憶を辿る。しかし、私の記憶はアルコバレーノが消滅するかのように逃げ、私達が勝利した所でぶつりと切れていた。戦った後私の身に一体、何があったというのだ。考えれば考える程可笑しい。疑問は膨らむばかりなのに、どうして思い出せないのだろうか。

何が…一体何があった?何が私に起こったとうのだ。ぐるぐると混乱する頭に必死に落ち着けと呼び掛ける。ゆっくりでいい、思い出せ、思い出すんだ。絶対に何かある。思わず動かしてしまった左腕を調度いいと言わんばかりに、六が刻まれた真っ赤な左目へと運んだ。刹那、左目が疼き流れ込んで来たのは断片的な残像。

砂嵐がかかっているにも関わらず妙に鮮明に見え、凄い速さで流れていく。そこには言わずもかな、骸君や私がいる。多分これはあの切れた記憶の続きだ。指輪を弄る私達の足元に突如として現れた歪みのような黒い円。薄紫色の怪しげな光を放ち、まるで魔法陣のようなそれはずるりと私達を引きずり込む。

なんとなくあの時感じた嫌な感覚が蘇る。と同時に映像の中の私が骸君を突き飛ばした。骸君の体は綺麗に傾き、魔法陣の外へと尻餅をつく形で投げ出される。グッジョブ私、と映像の自分を褒めていればいきなり映像が切り替わる。そこには突き飛ばした手をそのままに、目を細めて薄く笑う私と、尻餅を付き目を見開いた骸君。まるでドラマのワンシーンのようなそれに思わず目を細める。

そこで気付く。私達のそれぞれの瞳に刻まれたそれが今までに見たことのない数字へと変わっていることに。何てことだ。そこには七と言う漢数字が綺麗に刻まれた見慣れぬ私の瞳。私は驚きのあまり目を見開くと、思わず口から小さく声を漏らした。
この場にいる誰が祟狂道が開くなどと予想しただろうか。答えなんて聞かなくても分かる。本人達も知りえぬそれを予想するなんて、使いこなした超直感以外先ず無理だ。例えアルコバレーノだとしても。

これはまた厄介なことになってしまったと思わずにはいられなかった。なんせこの祟狂道、まだ一度も使ったことの無い…否、今まで使えなかったスキルなのだ。何が起こるのか解らない、という長年の謎は今回のこれで解明されるのだが、裏を返せば一体全体どうしたことか。何が原因でこれが発動したのかが全く分からない以上、手の施しようがなかった。

こんな風に気丈にも振る舞っているがはっきり言おう。今、私は不安と動揺が柄にも無く押し寄せ、軽くパニック状態にある。いくら化け物と言われようと元を辿れば私だって人間な訳で、しっかりとそこら辺の感情は持っている。

映像がまたぶつりと途切れた途端、左目が焼けるように熱くなる。嗚呼、痛い。目の前が真っ暗になり不覚にも怖いと思った。だが同時に骸君も同じ痛みを味わっているような気がした。不意に恋しくなりぎゅっと自身を抱けば、急に冷めていく感覚。
はっとして目を瞬かせれば目に飛び込んで来たのは濁りのない空。あの後私は結局どうなったのだろう?憶測に過ぎないが、きっと私はあの魔法陣的なアレにそのまま引きずり込まれたのだと思う。

そんないくら考えても解決策がない思考を巡らせるのに早くも飽きた私は、腹を括って体を起こすことにした。ゆっくりと手を地面に付け上半身を起こしていけば、鈍い軋むような音と口からくぐもった声がもれた。それにより己の体があちこちで悲鳴をあげているのが嫌でもよく分かった。


「…っ…思ってたより……」


ふらつきますね、と私の言葉が続くことはなく変わりに何とも言えぬ呻きが口からもれただけだった。何だかそんな自分がいたたまれなくなった私は一度目を閉じ、深く息を吸い込んだ。目をぱっと開き、上半身を起こしただけの私は気怠く重い自らの足を鞭打って立たせる。痛たた、と情けなく零した自身の声になんだか泣きたくなった。

立ち上がった私の視界は澄み切ったとまではいかず、うっすらと霞んでいる。だが、幸い血は止まっているようで、失血の心配はないらしい。しかしどうにも自身からのむせ返るような血の臭いが気持ち悪く、吐き気を催した。

私はその気分の悪さをぐっと飲み込み、よくよく辺りを見渡していけば、周りは現代では見れぬような森が広く青々と覆い茂っていた。そして足元をみれば土。コンクリではなく、土だった。明らかに現代では考えられないような光景に思わず口許が引き攣るのが分かった。


「…こんな場所、知らないんですが」




悪夢がリフレイン
随分嫌な記憶だわ




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