一度醒めてしまった頭というのはどういう訳か、自身の意とはまるで反しどんどんと冴えていき体を起動し始める。無理に眠ろうとしたところで、こんなにも覚醒した頭に逆らおうなどとすれば、逆に気怠さを引き起こす。目に見えて分かる不快感に、もうこれ以上は懲り懲りなので仕方なく体に従う。ゆっくりと鉛のように重い瞼をゆっくりと押し上げた。

するとどうだろうか。先程までのまばゆい光が嘘のように消え、気持ちの悪さと痛みの間のような奇妙な刺激がなくなった。だが、いきなり馬鹿みたいに当たっていた大量の光が消えたことにより私の目はちかちかと星を飛ばした。今度は風呂上がりのような感覚に、なんだかいい気分になれない。身近な生活で不快だと感じることのオンパレードがこうも続くと流石に怒りが沸々と募る。

ちかちかとした感覚が収まり、私は漸く目を薄く開いた。ゆっくりと開ければ人工的ではない眩しさに思わずほっとする。だが瞼の重みは取れず、なんとも厄介なことに恐れていた頭痛が再び生じた。頭痛は私の天敵であり苦手中の苦手である。
だが、これが目覚めの度毎回引き起こる症状だとすれば話は別だ。私は起きぬけどうも頭痛を引き起こしてしまうらしく、それに人特有の適応能力が働き、見事習慣化してきたのだ。つまり痛みに慣れた訳で。油断していたからなのかほんの少し痛みが生じたがそれ以外は何ら問題なかった。

慣れというのは本当に怖いもので、あんなにも嫌いだったこの痛みも昔に比べてしまえば大分和らいだような気がする。決して私がマゾヒストと言うわけではない、断じて。どちらかといえば寧ろノーマルな私は、魔女っ娘ならぬマゾっ娘になった自分を想像し思わず身震いした。おっそろしい考えに顔を青くし、そのまま気色の悪い思考を飛ばすかのように首を左右へと振り払った。


「?!…っ…、」


いや、正確には振り払おうとした、が正しい。それが最も適切な答だろう。
何故ならそれは振り払うという動作の為、首を持ち上げたことにより阻止されたからである。よっこらしょういち、とでも言うかのようにおもむろに伸びていた首を持ち上げれば瞬間、全身の至る所に鈍い痛みが駆け抜けた。もう、嫌だ。何だコレ。痛すぎるそれに声にならない声を上げ、私は再び体を沈めた。

というよりちょっと待て。この、酷く鈍い痛みは何だろうか。気を抜いていた為なのか、はたまたそれ程重傷な傷でも負っているのかのかと思考を巡らせる。癖で少し目をさ迷わせれば、不意に視界の端にあるものが映り込む。私の目に入ったのは、もうすっかりお馴染みの黒曜制服のスカートと、それから太腿辺りにある筈のガーターベルト。

おいおい、おいおい。ちょっと待て、冗談じゃない。何てことだ。私は思わず目を見開いた。私は弟の骸君に負けない位、制服が好きだ。大好きだ。だから、この制服は改造に改造を加え作り上げた私の渾身の作品。最高傑作と言っても過言ではない程のものだった。

しかし今視界に入ったものはどうだろうか。それらは無惨にも複雑に裂け、所々に赤黒い色が付着している。それに丹念に手入れをしキープしていた白い脚も青と赤が入り交じって紫色になっていた。私はショックのあまり脱魂しそうになった。もう無理、もう駄目。

だが今はそんな感傷に浸っている場合ではない、ということくらい自分の体を見てよく分かった。今の私が最も優先すべき行動は紛れも無く状況判断である。それは分かってはいるのだが、少なからず私にも混乱はある訳で私は一度自身を落ち着ける為に小さく息を吐いた。疲労感がどっと漏れる。これでは溜め息だ、なんて思う。
考えても意味がないという現実へのものなのか。それともこんな時にも頭の片隅で溜め息をした自身を見て、幸福が逃げてしまったとか思っている自分への呆れなのか。

多分、4分の3は後者である。我が脳ながら随分と余裕、というべきかぶん殴ってしまいたい思考を持っている思う。しかし、今ので体は重傷の様だが精神は比較的安定していることが分かり、私は少しばかり緊張が和らいだ。


望まぬ覚醒
不快指数上昇中



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