「ただいま、エ、ドガ…」
「お帰りなさい、名前」


そう言って玄関を開ければ、いつものようにエドガーが出迎えてくれた。が、私の見間違えでなければ彼は今なんともミスマッ…いや、似合ってはいるが性別的なことを考えるとミスマッチなふりっふり、ひらっひらな白いエプロンを身に着けていた。だが彼は別段特に気にしたり恥ずかしがる様子もなく、私をキスで出迎えてくれた。

私は何と無く嫌な予感がして、エドガーをすり抜けるとリビングへと足を進める。後方から若干焦ったような声が聞こえ、予感が確信へと変わる。がちゃりとリビングのドアを開ければ案の定、キッチンが戦場と化していた。


「………エドガー?」
「…すみません、名前。こんなつもりじゃ、なかったんです…」


青ざめた顔で問う私に後ろからやって来たエドガーが沈んだ声で呟く。明らかに落胆した様子の彼に私は溜め息をつき、キッチンへと向かい無言で片付けを始めた。
何と無く見られているのが分かるが一切見てやらない。あーあ、何これ、何で真っ黒なの。ごしごしと手際よく…とまでは言えないけれど洗い落としたり、着実に片付けていく。そしてあらかた片付いた所で私はリビングを出て風呂場へと向かった。扉付近にいたエドガーが何か言いたげな様子でいたが、敢えて無視。


「…気を、遣ってくれてるのは分かってるんだけどね」


どうにも空回りなんだよな、エドガー。湯舟に浸かりながら考える。エドガーだって悪意があってやっている訳ではないのだ。全く悪気がなく、私の為にやろうとして結果こうなってしまう。こんなことがしばしばあった。今頃エドガーはどうしてるだろうか、と考え多分ご機嫌取りの為に紅茶でも煎れているだろうと思い私はさっさと風呂場を後にした。


「あっ、名前…」


案の定エドガーはリビングで紅茶を煎れていた。何故かエプロンもそのままに彼は何処か思い詰めた表情をしながら手際よくカップへと綺麗な色の紅茶を注いでいく。
だががちゃりと私がリビングに入って来たことにより、その手は少し慌ただしくなり、エドガーは勢いよく急須を置いた。そして不安げな様子で私を見ると、エプロンの裾を握り締め俯いてしまった。


「あの…紅茶、飲みませんか…?」
「…うん、」


ちらりと伏し目がちに言われ、そんな様子になんだか同情を誘われた私はエドガーを見て答える。すると、少しだけ嬉しそうな顔をして、私の方まで来ると紅茶を差し出した。丁寧に差し出されたそれをおずおずと受け取りそのまま口に含む。ふわりと口に、鼻に広がる紅茶の香りと味に思わず顔を綻ばせれば、エドガーはまるでタイミングを見計らったかのように口を開いた。


「私…名前の役に立ちたかったんです」
「私の?」
「ええ、ですが料理も上手く作れず結局名前に迷惑をかけてしまうことになってしまって…」


唇を噛み締めて再び俯いてしまったエドガーに私は小さく溜め息をついた。それに反応しエドガーの肩がぴくりと震える。はたして、ナイツ・オブ・クイーンのキャプテンがたかが彼女の溜め息一つでこんなにびくついていていいものなのか。私はもう一度つきたくなった溜め息をぐっと飲み込むとしょんぼりとしたエドガーのさらさらとした頭を撫でた。すると驚いたのか、勢いよく顔を上げたエドガーに私は困ったように笑いすっぱりと言う。


「私の役に立ちたいと思うならもう紅茶を煎れる時以外キッチンに立たないで」
「え…」


私の言葉にエドガーが固まり、目許にじわりと涙を浮かべた。私はそんな彼の目許を指で拭い、少し真剣な顔つきでまだ話は終わっていないと続ける。エドガーは全然私のこと分かってないと思う。


「勿論片付けが面倒なのもあるよ。だけどね、違う。それだけじゃない」
「…………、」
「エドガーに怪我して欲しくないもの」
「!」


エドガーは驚きに固まったまま私を凝視する。少し、居心地の悪さと照れ臭さを感じてエドガーから目を逸らしながら言葉を続ける。


「私はこうして、家でエドガーが待っていてくれるだけで嬉しいの。だから…って、うおっ!!」
「名前、私名前のこと愛してます。なんて可愛らしいこと言ってくれるんですか」


タックルと言う名目で勢いよく押し倒され、私はソファへと背を預ける。見上げれば目を輝かせたエドガーがいて…ああ終わったな私。このあともう一度風呂に入ることを想像し、私は本日何度目かの溜め息をついた。


家に帰ると妻、
ではなくエドガーがいました




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