「おい阿含、お前今日が何の日か忘れたのか?」
「…あ゛ー?」

今日も今日とて女を侍らせ、部活をサボり。暗くなってから酒の匂いをさせ帰宅してきた弟を見て、雲水は呆れたような表情を浮かべてその背中に声を掛けた。
玄関先で靴を脱ぎ捨てていた阿含は、後ろから掛けられた言葉に生返事を返す。そうしてぼんやりと考えた。何かあったか、…いや、何も。あまり考える気も起きず、適当な言葉を返す。
「あー悪い悪い、忘れて」た、最後の一文字と同時に振り向いた、阿含の目に映ったそれ。相変わらず髪の毛のない坊主頭に角が付いたカチューシャを嵌め、踝まであるだろう長いマントを羽織っている。アルコールが入った頭では、神速のインパルスもうまく働かない。どうしてしまったんだこいつは。そんな心情が顔にありありと出ていたのかもしれない。雲水は溜め息を吐いた。

「好きでこんな恰好をしてる訳じゃないからな」
「雲子…テメェ変態だったのか」
「俺の話を聞け。今日はハロウィンだぞ」

ハロウィン?そういえば女共が騒いでいたような。ああそういえば、何か忘れているような…
目を合わせたまま固まってしまった阿含を、雲水は先程までとは違う…呆れではなく、憐れみを込めた表情で見詰めた。恒例行事なのに、何故こうも毎年忘れるのか。弟は、たまにどこか抜けている気がしないこともない。

ピンポーン。
二人が玄関で見つめ合っているまま数分。突然鳴り響いたインターホンで、ようやく阿含は我に返った。

「入っていいぞー」

阿含越しにドアに声を掛ける、雲水。それと同時にゆっくりとドアが開き、一人の少女が現れた。雲水と同じような服装をした彼女は、ドアを閉じてまず目が合った雲水に挨拶をした。「ハッピーハロウィン、雲水!」「ああ、ハッピーハロウィン、名前」満面の笑みで自分を見上げる名前を、雲水は暖かな笑顔で迎えた。
自分を挟んで行われるやり取りに、頭がフル回転する阿含。そうして服の裾が遠慮無しに引かれて、ようやく思い出したのだ。アルコールが一気に抜けていく感覚が、ある。ギ、ギ、そんな効果音がつきそうな動きで振り向くと、眼下には、やはり満面の笑みを浮かべた見慣れた少女。

「阿含、何で仮装してないの?」
「あーいや、これは…あ゛ー」
「悪戯ね」
「ちょ待ちやがれ触んな止め…!」

どたばたどたばた。小さな乱闘が始まったのを見届けてから、雲水は踵を返してリビングに向かった。我が儘な幼なじみを宥めるために用意した、バケツ一杯のお菓子を取りに行くためだ。
片手にバケツを持って戻ると、息荒く俯せになった阿含に名前が跨がっていた。ふと顔を上げ雲水を見て、顔を輝かせる。毎年ありがとう!嬉々としてお菓子に手を伸ばす彼女を見て、雲水の口元は綻んだ。
「テメェ覚えてろよ」彼女の下で、阿含は小さく唸った。大体、天賦の才をフル活用すれば、少女など一ひねりなのだ…ただ、それができないだけで。そんな阿含の心中を理解しきっている雲水は、低く喉で笑った。

「来年こそは覚えておけよ、阿含」
「…カスが…!」
「このチョコおいしーい」



不本意ながら敵わないのです





20111123
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