「アマイモン、今日は物質界では菓子がもらえなければ何をしてもいい日だ」
「では兄上、お菓子がもらえなかった場合名前をひーひー言わせてもいいのですか」
「無論」
「ワーイ!」

ちょっと待て。名前は寮の自室のドアを開けた姿勢のまま、その場に立ち尽くした。
綺麗に掃除していた筈の床は菓子屑とゴミで散らかり、タンスやデスクは荒らされている。壁に貼っていた好きな男性ボーカルのポスターは、真ん中がザックリ切り裂かれていた。そしてその部屋の中央に、(不本意ながらも)見慣れたカラフルな姿がふたつ。悲鳴を上げたくなった。おくむらせんせいたすけてあくまがいる。
床に座ってポテトチップスを頬張っていた緑髪の悪魔…アマイモンは、ようやく部屋の主が帰ってきたことに気付いた。無表情ながらも顔を輝かせ、持っていた袋を中身が散らばるのも気にせず放り投げた。

「おかえりなさい名前とりっくおあとりーとですお菓子をくれないといたずらします身包み引っぺがして足腰立たなくしてやります」
「え…ん?え?」
「私も同意見です☆」

すくっと立ち上がったアマイモンの背後、彼の兄メフィストが言い放つ。木製の椅子に腰掛けた彼は自前のティーカップで優雅に紅茶を啜る。その独特の良い香りが、呆然としていた名前の意識を引き戻した。

「待て待て待て待てーい!」
「何ですか、まだ悪戯してませんよ」
「状況が読めないんですけどォォ」

頭上にクエスチョンマークを浮かべ首をかしげるアマイモンの肩をこれでもかと揺さぶる。アー、無感情に声を上げる彼越しに、メフィストが名前と目を合わせた。バチン、と星が飛んできそうな彼のウインクに頬が引きつる。
「トリックオアトリートですよ、名前」当然の如く言う彼は、至極楽しそうに口元を歪めた。正に悪魔、その表情に名前は冷や汗が垂れるのを感じる。奴は本気だ。
アマイモンを半ば突き飛ばす形で手を離すと、彼は重力に逆らうことなく床へ倒れた。その隙に鞄を開き、片手を突っ込んで中を漁る。キャンディふたつでいいから出てきてくれ、そんな願いも空しく何も掴めない。焦る名前と裏腹に、メフィストは高らかに笑う。ムクリと起き上がったアマイモンは背中に付いた菓子屑を払いながら彼女を見上げた。

暫くして。
青ざめた名前を見据え、メフィストが静かにティーカップをソーサーに戻した。

「さて…どうやらお菓子は頂けないようですね☆」
「ちょ…待って待って待って今まで大量に食べてたんだよね!いいじゃんそれで!」
「もんどうむよーです」
「イヤアアアアア」

本当に彼女の足腰が立たなくなったのか、現時点では定かではない。



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20111104
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