「トリィィィィィックオアトリィィィィィト!」

朝6時。屯所に響き渡る甲高い声に、眠っていた者は目を覚まし、既に起きていた者は咄嗟に耳を塞いだ。
各々が部屋から顔を出し、何事だと視線を交わし合う。すると、だんだんとこちらに近付く二つの足音。
一人の隊員が、顔を向ける。そうして、あ、と声を上げた。

「皆さんおはようございます、今日が何の日かご存知ですよね!」

廊下の先から現れたのは、白いワンピースに身を包み、赤い頭巾を被った少女。左手に空の籠を持ち、右手に鎖の先端を掴んでいた。その鎖の先には我等が局長、近藤勲が褌一丁で繋がっている。
―何だ名前か、局長何してるんすか、今日って何の日?―
何か起こった訳ではなかった、そう気が抜けた隊員たちはそれぞれ口を開く。中にはもう一眠り、と部屋へ入っていく者も。それが気に食わないのか名前は地団駄を踏み、叫ぶ。「ハロウィンです、ハロウィン!」鎖がジャラジャラ鳴った。
ああ、と隊員たちが納得した様に頷く。名前が何かとイベント事が好きなことは周知済み、それで朝からこの騒ぎかと納得。何時もの質素な着物でいないのも、仮装しているからなのだと。
「さ、お菓子がなければ悪戯ですよ」何とも言い難い輝いた笑顔で言い放つ名前。誰もが眉を下げた。当然のこと、ここ真選組に所属するのはいい年の大人ばかり。そんな彼らが、彼女が喜ぶようなお菓子を所持している訳もなかった。「悪戯ですよ」お菓子どころか返事すら返ってこないことに痺れを切らし、名前がもう一度言う。

「…ったく、朝っぱらから下らねェことで騒ぎやがって」
「本当ですぜこのガキ。責任取って土方死ね」
「お前が死ね」

隊員たちが困り果てたそのとき、逆方向からふたつの声。「あ!」名前の意識が彼らからそちらに向けられた、それに気付いた瞬間皆素早く部屋に引き込んでしまった。部屋の中で胸を撫で下ろす。突拍子ない彼女のことだから、悪戯なんて"悪戯"じゃすまないに決まっているのだ。

一方廊下では、取り残された四人が向かい合う。やってきた二人…土方と沖田は、二人に歩み寄って口を開いた。

「何してる」
「土方さん、沖田さん!トリックオアトリート!」
「ここは日本だボケ」
「見て下せェ土方さん、バカ丸出しの格好してら」

楽しそうな名前とは裏腹にシビアな二人。

「大体近藤さんは何やってんだ、恥ずかしくねえのか」
「局長はゴリラの仮装中ですう」
「やっぱりバカですねィ、普段からゴリラなんだから仮装したことにならねえや」

鎖に繋がれ真剣な面持ちだった近藤は、沖田の言葉に大きなショックを受けたらしい。「俺ってそんなにゴリラかなァ!?」流れ出る涙もろもろを押さえもせず名前に抱きつく。変質者!そう叫んで問答無用でビンタを食らわせる彼女。
呆れたと言わんばかりに土方が溜息を吐いた。

「菓子なら何か買ってやるから、近藤さんを離してやれ。そんな奴が上司だとは俺ァ認めねえ」
「俺も土方が副長だとは認めねェ」
「何かハロウィンっぽくないなあ」
「ゴリラかあ…俺…」

ハロウィンと言えど、普段と何ら変わりなかった。



とある今日の日





2011114
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