「じゃあな、沙樹」
簡素な別れを述べて、金髪の少年紀田正臣は見慣れた病室に背を向けた。
最早ここでは馴染みの顔となっているのか、ロビーで手を振る看護婦に満更でも無い笑顔を見せて病院を出る。どんよりと淀んだ黒い空からは小さな雫が落ちてアスファルトに染みを作っていた。その様子が正臣のの心を深く蝕んでいく。
「どうすっかな」
友人達に何も告げぬまま学校を出て恋人、もとい元恋人の居るこの病院を訪れたがこのまま帰宅する気になれず呟きと共に空を見上げた。陽が射す気配は無い。まるで自分の心を写し出しているかのような黒い空に正臣は自嘲する。
何を思うでも無く空を見上げているとポケットに入れていた携帯が震えて着信を知らせた。画面を確認すればそこには今は見たくもない名前が表示されていて、少年は忌々しげに舌を鳴らした。
「…はい」
『やあ紀田正臣くん。あれ、元気無いみたいだけどどうかした?』
「たった今、アンタからの着信で生きる気力すら無くしました」
アンタと呼ばれた電話相手の男、折原臨也は予想通りだった正臣の返答に楽しげに声を上げて笑った。その声が彼の不快指数を倍にして増やしているなど、知ってか知らずか。
「相変わらずだな君は。どうせまた自分の傷でも掘りに行ったんじゃないの?解決する気も無いくせにねえ、悲劇のヒーローくん」
電話口から聞こえる言葉の羅列に正臣はギリと奥歯を噛み締めた。ぺらぺらと自分の図星を突いてくるこの男が、正臣は言葉の通り死ぬ程に嫌いだった。いつかはこの男を尊敬して止まず、心から信用していたなどと今となってはその頃の自分を殺しに行きたい程の汚点になっていた。
臨也の挑発に乗らぬようにとゆっくりと深呼吸をしてから口を開く。
「…で、用は何ですか。俺はアンタみてえに暇じゃないんすよ」
「おっと、正臣くんもちょっとは成長したみたいだね。まああんな事があって何も変化が見られなかったらただの馬鹿か」
いちいち人の気を逆撫でるような物言いをする相手に、正臣の携帯を持つ手には知らずと力が籠められる。
「それは置いといて…ねえ正臣くん、今夜うちにおいでよ」
言葉の意味を瞬時に悟った正臣は、ぐらりと脳が揺れる感覚を覚えて息を詰まらせた。臨也はそれ以上は何も言わずただ黙って返答を待つ。彼には正臣の返答など分かりきっていた。
「…分かりました」
行き場を失っている正臣にこれ以外の道を知る術が無い事など、分かりきっていた。


「どうだった?沙樹ちゃんの様子は」
生活感の無い片付けられた事務所兼臨也の自宅に性独特の、嗅ぎ慣れてしまった生臭い匂いが男の脚の間に跪く正臣の鼻を刺激した。
反応が無い正臣にマウスを操作していた手を止めると、片足を上げてその股間を踏みつける。
「、っう」
「どうだったかって聞いてるだろ?人の銜えてここ勃たせてる君には答えてる余裕なんて無いか」
制服を押し上げているそこを足の平でぐりぐりと押し踏まれ、びくびくと正臣の腰が震えた。始終楽しげに自分を見下ろす臨也を正臣はぎろりと睨み上げる。しかしそれは男にとって興奮材料にしかなり得ないものだったのか、口に頬張っていた臨也の一物が尚体積を増し息苦しさに眉を顰めた。
「いいねその顔。君が何も知らずに俺を慕ってにこにこ笑ってた時より、ずっと愛おしいよ」
言葉とは裏腹に愛しさの欠片も無い口振りで男が呟く。愛しさなど込められても正臣にとってはただ気持ちの悪いものでしか無いのだが、口いっぱいの一物に歯を立てて小さな反抗でもしてやろうかと実行するよりも早く臨也に手を引かれ、デスクに両手をつかされる。
尻を突き出すような男としては凌辱的な姿に反論を述べる間も無く下ろされる衣服に慌てて振り返るも、既に遅かった。何も解されていないそこへ、いきり勃った臨也の一物を押し付けられ強引に進入を始めた。
「ひ、っい…」
本来受け入れる事など受け付けないその場所は、しかし皮肉にも臨也の手によって開拓されておりその進入を許していく。
「あ、あ、嫌、だ…!」
「何が嫌?憎い相手にこんなことされて?それとも、それを受け入れてしまう君の身体が?」
「やめろっ、…」
くつくつと喉で笑う声が正臣の耳に届いた。背後からのしかかるのしかかる男よりも一回り小さな身体はびくびくと震え、ついに一物の侵入を完全に許してしまう。
「君は駒の中でも実に人間らしい行動をとってくれるよね。竜ヶ峰君もなかなか面白いけど、君の場合は…何て言うのかな」
瞬間、遠慮など知らぬように臨也の腰が打ち付けられて正臣の身体は一際大きく震えた。
「ひあっ、あ、あ、!」
正臣の身体を知り尽くしている男は僅かに息を乱しながら確実に弱い場所を突き上げる。その度に苦痛ではない快感を感じてしまうこの身体に、正臣はぎりと奥歯を噛み締めた。
「これだから好きなんだよ…君が」
耳元で吐かれた言葉に噛みつく意識は既に遠のいていた。

20110606 / 折原臨也
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