「ん、んっ、」
明くる日、いつものように事務所に出勤しドアノブに手をかけたら。中から女性の艶めいた声が聞こえてそのまま身体が固まった。この時間帯事務所に居る人間といえばトムさんだけの筈だ。イコールに繋がっていく考えを導き出して俺は息を飲んだ。
(まさか)
少しだけ開いていたドアの隙間から中を窺ってみると、そこには予想通り。トムさんと名前さんの姿があった。抱き合って、口付けを交わしている。最悪なタイミングで来ちまった、と頭を抱えた。いや、シフトの時間通りに出勤しているのだからちっとも悪くないのだが、自分のタイミングの悪さを呪った。流石に中に入る事は出来ずに思案していると、中から甘い声が聞こえてまた視線を二人に戻してしまう。
「トムさ、っふ」
良くない事だとは思いつつも釘付けになった。トムさんの肩の先にある名前さんの表情に。切なげに眉を下げてだらしなく開いた唇。必死に舌を絡め頬は紅潮している。時折漏らす声が、最高にエロかった。
「…続きはまたな。もう静雄来ちまうしよ」
「…ん…お仕事頑張って」
物足りなそうに離れた二人を目にして後ろめたさから俺は慌てて物陰に隠れた。事務所を出て行く名前さんの背中を見つめながらこの動悸を抑えるべく俺は深く息を吐く。しばらくその場に呆然と立ち尽くして、結局遅刻になってしまったのは言うまでも無い。しかし本当の悲劇は、次の日に起こった。


『あっ、あ、静雄、くん…!』
『名前さん、…』
『そんな、激しくしたらっ、だめ…もう…』
『イきますか…?』
『イ、く…静雄くんっ、しずっ、あああ!』


(!)
がばりと俺は飛び起きた。目に写るのは、見慣れた俺の部屋。カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいる。朝だ。どうやら夢だったらしい。昨日見たトムさん達の情景を思い出す。長く浅い溜息をつきながら視線を落とせば、ボクサーパンツの中の物がすっかり反応してしまっているのが目に入った。
「…なんて夢見てんだ」
思わず呟いて、俺は額を押さえた。

20100820 / 花の君
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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