「脱ぎなよ」
質のいい皮のチェアーに腰を沈めた臨也さんが、細くしなやかな脚を組んでいつも通りの見下したような笑みを浮かべながら言った。ただその手に抱える女性の生首が、彼の異常さを際立たせている。その背後にある大きな窓にもちろんブラインドは下りていなくて、新宿の夜景がはっきりと見える。あの有能な、しかしどこか歪んだ助手は今ここにはいない。彼の前にただ佇んで、じっと見詰めた。
「あれ、聞こえなかったのかな。脱げって言ってるんだけど」
先程より強めの口調で、また彼が言う。赤く光る瞳から視線を逸らし俯いた。
「臨也、さ」
「脱げ」
私の言葉など彼には届かないのだ。持った生首に愛おしげに頬擦りする彼の私に向ける視線は、とても冷たくて悲しくなった。ただ、その首のように愛して欲しいだけなのにどうして。そう思ってしまう私も歪んでいるのだろうか?最早何も言えなくて、私は諦めたように肩を落とした。そしてワンピースの上に着た薄いカーディガンから、ゆっくりと腕を抜いた。ぱさりと、埃一つ無い床にそれが落ちる。その様をただ黙って見つめる臨也さんの視線がとても痛かった。背中のチャックに手をかけようとしたところで、彼が口を開いた。
「ああ、待って。俺が下ろしてあげるからこっちにおいで」
言いながら生首を机に置いた彼。今、一瞬だけかもしれないけど。その生首から私に気を向けてくれた事が凄く嬉しくて心臓が飛び跳ねた。冷たい床の上を裸足でひたひたと歩き、歩み寄る。するといきなり腕を引かれ、今まで彼の背後にあった窓のガラスに押し付けられた。両手をついたそのガラスは外気によってひんやりと冷たくて、思わず身体が震える。そして背中のチャックに彼の手が掛かり、どこか焦らすようにそれを下ろした。じじ、と静かな部屋にその音が響いてなんだかそのもどかしさに膝を擦り合わせた。目の前に広がる夜景から目を逸らすと、後ろからくく、と喉で笑う声が聞こえた。
「恥ずかしいの?そうだよねぇ、もしかしたら外から見えてるかもしれない。下手したら写メなんか撮られちゃったりして」
「っ、」
腰までチャックを下ろされ、露になった背中にゆっくりと指先が這わされ肩を縮込ませた。衣服と肩の間に手を通されて、そのままするりとワンピースを肩から落とされる。床に布が落ちて、ついに私は下着姿のみになってしまった。外から見てる人が居るかもしれない、背中からとは言うものの、臨也さんが見ている。恥ずかしすぎて、どうにかなってしまいそうだった。
「臨、也さん」
縋るように目の前のガラスに身を寄せ首だけで後ろを振り返ろうとしたが、背筋に指先が這ってびくりと肩を揺らした。
「この身体を、シズちゃんが抱いたのかぁ」
その言葉にぎくりと心臓が高鳴る。
「あっ、あれは、」
「あっはははうんうん、分かってる。よくやってくれてるよ君は」
臨也さんの命令で、私は静雄さんの懐に潜り込んでいた。あの人の隙をついて、殺す為に。私は命令通りに潜り込むことが出来、付き合う所まで発展した。そしてつい先日、静雄さんに抱かれた。私はあの人に恨みは無いし、むしろ接触してみてとても素敵な人だということが分かった。ただ、最愛の臨也さんの命令は絶対だ。
「んっ、」
不意に背中にぬるりとした感触を感じて声が漏れた。臨也さんの舌だった。その舌先は背筋を伝うように滑る。片手で腹を抱き込まれ、もう片手でブラの上から胸を掴まれた。臨也さんに触れられている。臨也さんの唇が私の項に吸い付いている。そう考えただけでもうどうにかなってしまいそうで、私はうっとりと目を細めた。
「どうだった?シズちゃんに抱かれて。気持ちよかった?アイツうまかった?ああなんかムッツリそうだし、胸いっぱいしゃぶられたのかなあ」
「そ、それ、は」
ブラ越しにやんわりと胸を揉まれながら、耳元で囁かれる。彼はどうしてそんなことを聞くのだろう。興味など無いはずなのに。彼さえ殺す事ができれば。はあ、と熱い息を吐くと僅かにガラスが篭ったのが見えた。
「ここに、アイツが入ったんだよね。ムカつくなあ」
臨也さんの腹を抱いた腕は脚の間に下りて、下着越しに指先で割れ目を撫でた。ゆっくりと指が上下して、そこを撫でられる。それを敏感に感じ取りながら、私ははたと思考が止まった。
「…え?」
今、この男は何と言ったか。私の耳が確かなら、今。いや、でも有り得ない。それの意味を考えるために頭をフル回転させる。今までは携帯での連絡ばかりだったというのに、何故彼はわざわざ私を呼び出してそんなことを聞くのか。その点と点が繋がって。でもその答えはどうしても信じられなくて。
「臨、」
振り向こうとした頭を掴まれて、ガンとガラスに打ち付けられた。呻き声を上げて顔を苦痛に歪め、顔も見えない相手に僅かな恐怖を覚えた。
「勝手にこっち向くな」
聞こえた声は冷たくて、でもどこか焦りのようなものが感じられた。頭をガラスに押さえつけられたまま、かちゃかちゃとベルトを外す音を耳にした。まさか、とある考えが頭に浮かんで背中に冷たいものが走る。しかしその予想は見事に当たり、片手で乱雑に下着を擦り下ろされたと思ったら、まだ全く慣らされていないそこに熱い塊を押し付けられた。待って、と言う間もなく、その大きい塊は裂くように私の中に入ってきた。
「あああっ!」
物凄い痛みが私を襲い、声を抑える事無く叫ぶ。ガラスに立てた爪がキイ、と嫌な音を立てた。
「っははは、あは、きっつ。シズちゃんに開拓されたんじゃなかったの?それとも残念な大きさだったのかなアイツ、あはははっ、笑える」
何が面白いのか、彼は笑い混じりに言いながら構う事無く腰を打ち付けてきた。滑りの無い場所を往復する塊に、じんじんとそこが熱くなった。
「ああ、あっ、臨也さっひあ」
「いいねえその声」
鼓膜に直接響く声に、ぞくりと背中が震えた。徐々に濡れてきた私のそこは、確かに快感を感じるようになっていって。声も叫び声のようなものではなく、甘い声へと変化していく。
「感じてるの?Mなのお前?」
くすくすと未だ面白そうに笑う彼は止まる事無く腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅとそこから粘着質な水音が響いた。私の頭にある手に力が篭り、ぐりぐりとガラスに押し付けられる。
「うう、あっ」
「はあ、っはは、ああ気持ちいい。ねぇ、名前も気持ちいいだろ?シズちゃんの時より、ずっと」
正直、気持ちよさより痛みの方が大きかった。でも、そう言う彼に私の心はどんどん満たされていって。自惚れかも知れないけれど、嬉しくて。
「気持ち、いいで、すう、臨也さんっ、もっと…!」
そう言えば満足そうに笑い声を上げる臨也さん。次いで直接中へ注ぎ込まれた熱いものを感じた。すると不意に膝裏に入った手が片足を持ち上げ、窓越しに繋がったままのそこを外へ見せ付けるかのように広げられた。高層とはいえ、ここまでしたらもしかすると見えてしまう人がいるかもしれない。そう考えて頬に熱が集まった。
「ほら、名前のココ、皆に見せてやりなよ」
「、や」
ふるふると首を振る私に、喉で笑いを堪える彼。ちゅう、と耳たぶを吸われたかと思ったら唇を耳に押し付けてきた。
「でも使っていいのは俺だけだよねえ。そうだろ?」
鼓膜に直接響いた、たまに聞く事のできる低い声。私が持つその言葉への答えは、ただひとつ。ゆっくりと瞼を落とし、こくりと頷いた。
「はい、臨也さん」
ああ、私はこれだから、彼のことが。

20100712 / 歪み愛
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