「うーん、ちょっと作りすぎたかな」
コンビニのご飯じゃなくてたまにはちゃんと自炊をしようと。キッチンに立ったのはいいものの、出来上がった料理を眺めて私は溜息をついた。どうやら張り切りすぎてしまったようで、肉じゃがの量がとても多くなってしまった。一人でこの量を食べるのはちょっと無理がありそうだし。タッパーに入れて残しておくことも考えたが味が濃くなってしまいそうだ。もちろん、手料理でも食べに来ない?と呼ぶような彼氏は居ない。悲しいことに。どうするかな、と肩を竦めたところで、隣からばたんとドアが閉まる音が聞こえた。どうやら先日うちに挨拶に来たあの隣人が帰ってきたようだ。バイトにでも行っていたのだろうか、それとも学校?まあそんなことはどうでもいい、一人暮らしには変わりないだろう。いい案を思いついて私は食器棚からタッパーを取り出し、鍋の中の肉じゃがを詰めていく。ちょうど半分ずつ程になったところでその蓋を締めた。そして向かうは隣の部屋だ。(またバカにされないよう、着ていた部屋着のキャミを隠すようにカーディガンを羽織るのも忘れない)
ぴんぽーん、
タッパーを片手にインターホンを押せば、うちと同じの聞きなれた音が響く。しばらく間を置いてからがちゃりとそのドアは警戒することも無く開けられた。次いで現れたピンク頭の男は一瞬驚いたように目を丸くするも、すぐにその顔は人懐こいものに戻った。
「隣のお姉さんか、どうしたの?」
多分だけど、私の方が年上だと思うのに気にする事無くタメ口。浮かべた笑顔が引き攣りそうになったがそこは予想もしていたので敢えて突っ込まないことにする。
「いきなりごめんなさい、あのー、夜ご飯、食べました?」
「いや、今帰ってきたばっかりだからまだだけど」
よし!と私は内心ガッツポーズした。ここで勘違いしないで欲しいのは、好きな人に手料理を食べてもらいたい女、という訳ではない事。ただこの余った肉じゃがを有意義に処理できることに対してのガッツポーズでしかない。
返答を聞いた私は喜々として手に持ったタッパーを男に差し出した。
「よかったらこれ、今晩のおかずにでもしてください。作りすぎちゃって。味は、まあ悪くは無いと思いますけど」
男はそれを受け取ると不思議そうにそれを眺めやがてにっこりと微笑んだ。その顔は私の知っている怪しい笑みではなく、年相応の(年知らないけど)可愛らしい笑顔で。
「ありがとう」
「あ、は、い」
その表情に一瞬目が奪われてしまったなんて事は、
「毒とか入ってないよね」
「入れるか」
前言撤回だ。

20100629 / 隣人
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テーマ「人外ファンタジー」
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