かちゃかちゃかちゃ、きん、がちゃ、ばたん。
ああまたか、と優雅にお風呂で半身浴をしていた私は小さな溜息を吐いた。念のため置いておいたタオルを手にとって自分の身体を隠す。バスタオルではないから本当に、申し訳程度にしかなっていないけれど。それと同時にがらりとバスルームの戸が無遠慮に開かれた。浴槽から見上げればやはり見知った人物がいつものように笑みを絶やさずそこに立っていて、今度は内心で溜息をつく。
「こんばんわ、名前ちゃん」
言いながら男はコートを脱いで床に投げ捨て、バスルームへ足を踏み出した。靴下が濡れるのも構わずに浴槽の傍らに立ち私を見下ろす男。折原臨也はにいと口角を上げた。そこから視線を逸らして、湯の中で身体にかけたタオルを握り締める。
「臨也さんはいつもピンを持ち歩いてるんですか?」
「名前ちゃんが鍵開けといてくれないからでしょ?」
そんな無用心な事出来るわけないのにと考えていると顎掴まれ上を向かされる。彼と間近で視線が交わったと思ったらそのまま唇が下りてきた。その瞬間ふわりと男から香った女物の香水に目を細める。啄むようにして口付けるその唇は薄くて冷たい。唇の形には人柄が現れるというが、まるでそうだなと私は思った。親指で唇を開くように添えられると促されるままに私はそうし、次いで生温かい舌が入ってきた。ぬるりと舌を絡め取られ、顔の角度を変え、咥内を存分に舐め回してからそれは離れた。
そして私の脇に両腕を差し身体が持ち上げられると、湯から出されて浴槽の縁に座らされる。身体を隠していたタオルが落ちて、明るい場所で裸が晒される事に羞恥心を刺激された。
「隅から隅まで見えるねえ」
そんな私の気持ちを見透かしているかのように言い放った男から顔を逸らす。頬が熱いのは湯に浸かっていたせいだけではないと思う。更に男は太腿を掴み大きく脚を広げるとその間に身体を割り込ませ、膝をついた。間近で秘部を凝視されてどんどんと顔の熱が上がっていく。しかし男は何もしない。ただ見つめるだけで。とろりと、蜜が溢れるのを自分で感じた。
「アッハハ!見られてるだけで感じてるの?」
それが彼にバレるのはすぐで、面白そうに声を上げた。そして舌の腹でべろりと蜜を舐めとられる。
「ひ、」
ひくりと腰が揺れた。男は更に面白そうに口角を上げると今度は豆に吸い付いた。
「はあっ、あ」
鼓膜に響く自分の嬌声が届く。不意に視線を下ろせば、彼の項に赤い痕がちらりと見えて心臓が痛くなった。もちろん私がつけたものではない。先程香った香水、そしてこの痕から考えることはひとつ。今に始まったことではないが。
「ま、た、誰かを抱いてきたんですか」
言えば男は顔を離し私を見上げた。端正な顔がじっと私を見つめる。
「なぜ臨也さんは、この家に来るんですか」
その質問にまた男の唇が弧を描いた。
「ここが俺の帰る場所なんだ。やっぱり君が一番だよ」
予想もしていなかった言葉に私は目を見開く。彼はくすくすと笑い出した。
「って言葉を期待してるのかな」
その言葉に私はかああと顔を紅潮させた。尚も面白そうに笑う男を恨めしげに睨む。ああ、やはり彼は彼だった。何を期待していたのか。今更ではないか。ただこの男は私を観察する為だけにこうしているのだ。
「それじゃあ言ってあげよう。愛してるよ名前」
しかし馬鹿な私は今日もこうして、この男に。

20100621 / 堕ちていく
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