「僕と、付き合って欲しい」
「へ?」
楊ゼンさんに告白された。休み時間にお城の裏庭に呼び出されて何のお話だろうと思ったら。同じ仙道だし一緒にお仕事したりお茶したり、普通に仲はよかったけれど今までそんな素振り見せたこと無かったのに。彼は冗談を言う人ではないのは分かってるから、これもきっと本気なのだろう。それでも彼ほどの人が何故私を選んだのかは、到底想像はつかないけれど。
「え、と、」
「返事は明日でいいから。考えておいてくれるかな」
そして彼はにこりと綺麗な微笑みを浮かべて言い、口をパクパクさせる私を置いてお城の中へ戻っていった。

「うーん」
とりあえずあのまま突っ立っていてもどうしようもないと、私も部屋に戻った。と言ってもお仕事の続きをしなきゃいけないし、望ちゃんの執務部屋だけど。お仕事なんか手につかず、机に肘をついて私はずっとうんうんと唸っていた。
「何をさっきからうんうん唸っておるのだ、便秘…ブッ!」
見かねた様子の望ちゃんが失礼な事を言おうとしたのが分かって、机の上にあった消しゴムを彼の顔面に投げつけた。
「レディに普通そういうこと言う?」
「レディが消しゴム顔に向かって投げるんかい」
「うるさいなーそんなんだからモテないのよ望ちゃんは」
「わしはそういうのに興味が無いだけだ。それにお主だって似たようなものではないか。女なら男のひとつも作ってみよ」
「ああら、私だって告白のひとつやふたつ受けて、」
そこまで言って先程の出来事を思い出し、私は望ちゃんから視線を逸らした。そうだ。おバカな望ちゃんとこんな言い合いしている場合ではない。何せ返事は明日しなくてはいけないのだ。彼が真剣に言ってくれた分、私も真剣に考えなくては。そこで不意に、コツ、と机を叩く望ちゃんの指が視界に入った。見上げれば先程の意地悪な顔とは違い、凛とした彼の顔があった。
「何か悩んでおるのだろう。わしでよければ聞くが」
彼は昔からそうだった。だらけたりからかったり、普段はそんな風な素振りを見せていても人の気持ちには目敏く、そして誰よりもそれを考えている。困ったときに私が頼るのは、仙人界に居た頃からずっと彼だった。告白されただなんてそんな事簡単に人に言うものじゃないと思いつつも、今回も頼らずにはいられなかった。
「あの、ね」

「なにー!」
「わ!ちょっと!しー!」
誰にも言わないでね、と相談事を話してみれば、望ちゃんは心底驚いたように声を上げた。ばたばたと手を振って慌ててそれを咎める。
「で、返事はどうしたのだ」
「明日、また聞かせてくれって」
「そうか、あやつが名前を」
どうしたらいいんだろう、と。私は肩を落とした。望ちゃんは思案するように腕を組んで私を見詰める。
「どうするもこうするも、お主は楊ゼンの事をどう思っておるのだ」
そう言われ、私は楊ゼンさんのことを頭に巡らせた。彼は凄い人だと思う。才能にも恵まれ人柄もよく、道士としても人としても尊敬する。見た目も、勿論いい。女性なら誰でも、ああいう人と一緒になれたらとても幸せだとは思う。でも、私は。
「楊ゼンさんのこと、そういう風に考えたことない」
「あやつもなかなかあれで、やるからのう。将来も有望だぞ」
そうは言われても。私にはもう好きな人が居るのだ。長い間好きで居続けて、見込みは無さそうなのは分かっているが。その本人をちらりと見て、私はまた溜息をついた。こんな恋愛話に真剣になって考えてもらっても、なんだか複雑だった。また視線を落としたところに、望ちゃんの声が更に降ってきた。
「ま、わしの方が名前を幸せにしてやれるがな」
(やっぱり見込みは無さ…え?)
「え?」
聞こえた言葉に顔を上げると、いつの間にか彼は自分の机に戻っていた。それきり黙ってしまった彼の背中を見詰める。どきどきと心臓が高鳴っている。爆発しそうだ。
「…今、なんて?」
「二度も言うかボケ」
彼がガシガシと頭を掻くのは考えに詰まった時か、照れた時の癖だったと私は認識している。その後姿に、私は思わず笑った。
「やっぱり申し訳ないけど、明日断ってこようかな」
「お主がそうしたいならそうすればよかろう」
「それで私、好きな人に告白する!」
「奇遇だのう、わしもそう思っておった所だ」

20100616 / 明日天気になあれ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -