ぴんぽーん
仕事もお休み、外は雨。友達との予定もなく暇を持て余していた私は部屋の中でパソコンをいじっていた。世の中は便利なものでネットで簡単に品物が買えてしまうのだ。夏も近付いて暑くなってきたし。可愛いルームウェアでも欲しいなとぼんやりとネットサーフィンなんかをしていた。何件かネットショップを回ったところでイチゴ柄の可愛いのを見つけて、あ、これいいかも、なんて思ってたら部屋のチャイムが鳴った。
誰だ?なんて考えてみるけど分かる筈もなく、重い腰を上げて玄関に向かう。休みなのでメイクもしておらず、すっぴんはおろかキャミとスウェットの下という適当な格好だったが無視するわけにはいかない。もしかしたら先日に配達か何かかも。ドアスコープから確認してみると、そこには桃色頭の見知らぬ男が立っていた。
(…勧誘?)
その姿に見覚えは無く、そんなことを考えながらドアのチェーンをかけたままゆっくりと開いてみる。現れたのはやっぱり桃色頭の男。自分より年下のように見える。男はにこにことした顔でそこに立っていた。見た目は可愛い美男子だが、その笑顔がなんだか怪しい。
「どちらさまですか?」
「あ、初めまして。隣に越してきた神威っていいます」
そういえば隣は最近ずっと空いていたような気もする。そこでやっと男の目的を理解してチェーンを外し、本格的にドアを開けた。
「ああ、隣に。苗字です」
「よろしく」
そう言って手渡されたのは粗品。タオルだった。こんなご時世にわざわざ隣人に挨拶だなんて珍しい。しかしこんな可愛い男の子なら悪くはないな。何かあった時、男性なら助かるし。
「こちらこそよろし、」
「お姉さん、胸でかいね」
ここは印象よくしておこうと笑顔でよろしくと言おうとした私の言葉を遮って男は言った。私に負けず劣らずにこにこと笑みを浮かべたまま。思わず私はそのまま固まった。この男は今なんと言った?その可愛い顔で。
「、は?」
「でもその年でイチゴ柄のキャミソールはどうかと思うよ」
この男は今なんと言った?大事なことなので二回言いました。そろそろ浮かべたままの笑顔が引きつってきた。
「それじゃあ」
言うだけ言って男は小さく手を振り、固まったままの私を置いて自分の部屋へ戻っていった。ばたん、と扉が閉まる音が聞こえた。ひくひくと口元が震える。私もゆっくりとドアを閉め、鍵を掛けなおす。そして、貰った粗品を力任せに床に投げ捨てた。
「なんなのあの男!」
初対面であの言動。考えられない。失礼すぎる。最低。胸がでかいねはともかくその年でってなんだ。これでも年齢よりは若く見られる時もある。自分でもちょっと二十うん才にもなって大きいイチゴ柄のキャミなんてバカっぽいかなとは思ったが。私は今日これを着ていた事を激しく後悔した。突っ込むところはそこでは無いとも思ったが女の子として胸がでかいと褒められるのは嬉しい。しかもあんなイケメンに。そう。イケメン。
(格好よかったな)
彼はいくつなんだろう。学生?そんなことをぼんやり考えながら、私はまたネットショッピングを再開した。イチゴ柄にちょっと悩んだけど、やっぱり買ってしまうのだった。

20100616 / 隣人
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