「ん、」
深夜、肌寒くて眠りから意識を浮上させた。暗い中の月明かりを頼りに目を凝らすと隣には神威さんの穏やかな寝顔が見えて、思わず口元が綻ぶ。
あんなに好奇心旺盛で野性的な人の寝顔がこんなにも可愛らしいものだなんて誰が思うだろう。肩から少し落ちたシーツを互いの身体に掛けて再びその寝顔に視線を戻す。
「神威さん」
小さく、本当に小さく。彼を起こしてしまわぬように。掠れた声で名前を呼ぶ。そして指先を伸ばし、そっと彼の頬に触れた。少しだけ押してみるとすべすべな肌が指を押し返した。その感触が気持ちよくてつんつんとつついてみる。すると彼の頭にあるアンテナのようなクセ毛が揺れるのが見えて思わず笑いが零れてしまう。
掌で神威さんの頬を包んで、ぼんやりと寝顔を見詰めた。普段は鋭く光る眼も瞼で隠されていて、真っ直ぐと見ることができる。まじまじと見詰めて目元を親指でなぞった。
(綺麗な顔…)
周りの女性が騒ぐのも無理は無い。改めてよく自分なんかがこの人の奥さんになれたものだと苦笑した。そういえば昔は恥ずかしくて仕方が無くて、神威さんに触れるなんて全くできなかった。今もそんな堂々と触れられるわけでもないけれど。こうして彼に触れていると心が温かくなるような、安心するような、そんな感じがした。
そんなことをぼんやり考えていたら、ぱちりと。不意に神威さんの目が開いて視線が間近で交わった。
「!」
驚いて手を引っ込めようとする前に、その手を掴まれ更には項を引かれて互いの唇が重なった。唇を食むように啄ばまれてから離される。彼の顔には悪戯っ子のような笑みが浮かべられていた。
「なにしてるの」
「お、起きてたんですか?」
「あんなに触られたら目も覚めるよ」
「…すみません」
それもそうか、と私は彼を起こしてしまったことを詫びる。そしてさっきまで私がしていたように、神威さんの掌が私の頬を包んだ。
「で、何してたの?」
「いえ、何も。ただ、神威さんのほっぺたが気持ちいいなって」
神威さんが不思議そうにぷにぷにと私の両頬を指で挟んだ。
「そう?俺は名前のほっぺたが好きだけど」
首を傾げる神威さんが可愛い、なんて思っていたら頬にゆっくりと口付けられた。ちゅ、と響くリップ音になんだか恥ずかしくなる。
「名前に触れてると安心する」
まさか同じことを考えていてくれるなんて思わなくて、驚きに目を丸くした。そしてとても嬉しくなった。
「私も、そう考えてたんです」
「俺、あんま他人に触られるの好きじゃないんだけど。名前にならいいよ」
「ありがとうございます」
言って私はまたひとつ笑った。今もこれからも、私に触れるのが彼だけで、彼に触れられるのは私だけであるようにと願いながら。

20100616 / 触れる
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