「太公望さーん!」
今日も晴天、追っかけ日和!
絶賛修行中道士の名前は、崑崙山をぐるぐるとまわって片想い中の太公望を捜していた。太公望は場所を転々としながらサボる癖があるので、いつも名前はなかなか見つけられずにいる。
「おかしいなあ、今日は一体どこに……、あ!」
高い場所へと登りキョロキョロと辺りを見回すと、木陰で休む太公望の姿を名前は見つけた。途端に笑顔になり、ぴょんぴょんと軽快にその場を目指す。
「太公望さ、……っ寝てる?」
すとんと太公望の前へ着地し、声をかけようとするも、その様子を見て名前は首を傾げた。木に寄り掛かりながら寝息をたてる太公望そっと近寄り、自分もとしゃがんでその寝顔を覗き込む。
「寝顔、かわいい」
幸せそうに眠る相手を見て微笑むと、名前は起こさないように隣へ腰を降ろす。至近距離で見る太公望の顔に微かに頬を染めながら、名前はゆっくりと頭を相手の肩へと預けてみた。
(…周りから見たら恋人同士みたいに見えるかな)
片想いでいつも適当にあしらわれているのだ、これくらいしても罰は当たらないだろうと。ひそかに名前ははにかんだ。
ちらりと見上げた太公望の顔に更に欲は生まれ、ごくりと息を飲む。名前はこのまま口付けてしまおうと目を閉じて唇を寄せた。と、その瞬間、
「こら」
「!」
唇が重なる前に太公望の声が聞こえれば名前は驚いて目を開く。そこには閉じていたはずの、太公望の眼とばっちり目が合ってしまった。
「きゃー!」
「ぬおっ、」
混乱したように名前は両手で太公望を突き飛ばし、自分もその場から急いで後退る。有り得ない程の速さで名前は心臓を鳴らし、困ったような表情で太公望を見ていた。太公望は突き飛ばされた体を起こし、たいして痛くもなさそうに腰を摩る。
「たた…、キャーはわしのセリフじゃ!」
「ななな、っなんで起きて!」
「何でもなにもわしは最初から起きとったが」
「お、起きてるなら起きてるって!」
「気付かないおぬしが悪かろう」
「そんな、」
「しかし、まさか寝込みを襲われるとは思わなかったわ」
そこまで言われてしまえば、名前はただただ困ったように頬を染めるだけだった。太公望はクク、と名前の反応を面白そうに眺める。
「で、おぬしはわしに用だったのか?」
「、これ!」
次を促してやった太公望の前に出されたのは、よく熟れた桃二つにその花だった。
「おお、またくれるのか」
「太公望さんだからあげるんです!太公望さんだけです!」
「うむ、わしは根っからの桃好きだからのう」
「じゃ、なくて!」
「む?」
名前の言葉に首を傾げる太公望。名前はまだ染まった顔で視線を泳がせていた。
「その狡賢い頭で考えてください!」
「わからん、どうゆう意味だ?のう、名前、うぷ!」
と、太公望は顔にバサリと、大量の桃の花を投げられて言葉を遮られた。視界が悪くなったことに慌てて太公望が顔を上げれば、すでに名前はまた身軽くぴょんぴょんと去っていき、後ろ姿しか見えなくなっていた。
「なんなんじゃまったくあやつは」
その後ろ姿が見えなくなれば、その場に散らばった桃の花へと目をやりポリポリと頭を掻く。
「少しいじめ過ぎたか」
今更遠回しに伝えることでもなかろうに、と太公望はその花を手にとって愛しげに見つめた。
桃の花の花言葉。私はあなたのとりこです。
「…気付かぬ訳がなかろう、ダアホめ」

20090618 / 桃の花
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