名前がこの船に来てから数日。だんだんとアイツも此処の暮らしに慣れていったようだった。時折団員と阿伏兎と共に笑顔で談話する姿を見つける。しかし名前が俺に慣れる事は未だ無く、俺にその表情が向けられた事は無かった。それどころか俺の顔を見ると初めて会ったあの時のように怯えた視線を向ける。益々、面白いじゃないか。簡単に手に入っては詰まらない。そろそろ手を出してやろうかと考えて、にいと口角を持ち上げた。
阿伏兎が煩そうだけど、そんなにあの女が大事なら死ぬ気で守れば良い。むしろそうこなくては面白くない。要するにどう転んでも、俺には都合のいい展開にしかならないということだ。遊びでやってる訳じゃない、俺はいつも本気だ。阿伏兎を陥れたい訳でもない。ただ、あの女が美味そうだったから。ただそれだけ。
「あ、阿伏兎さん」
阿伏兎の部屋の前を通りがかった所で、不意に名前の声が聞こえた。扉に視線をやれば、どうやらその中から聞こえてきたようだった。どうやら二人きりで居るようだが、阿伏兎の声は低くくぐもってよく聞こえない。
「だめです、こんな」
こんな時間から盛って、おじさんおじさんって自分で言う割にアイツもやっぱり男だなとぼんやり考えた。とりあえず、二人の生臭い声をこのまま黙って聞いているつもりは無い。都合よくこんな場面に出くわしたのなら、する事はひとつだ。
がちゃり、と。なんの遠慮もせず、俺はその扉を開けた。
「っ、だ、団長様!」
同時にベッドの上に組み敷かれる名前が俺の顔を見て声を上げた。それに続いて阿伏兎の顔もこちらに向けられる。あの時の、咎めるような目が俺を見た。名前は顔を真っ赤にして俺の顔と阿伏兎の顔を交互に見ていた。それを気にすることなくいつもの笑みを浮かべる俺。
「阿伏兎、そろそろ任務の時間だけど」
言ってやれば阿伏兎は大きな溜息をついてベッドから降りた。傍らの椅子にかけてあったマントと傘を取り、まるで俺に牽制するかのように名前の額に口付けた。やってくれるじゃないか、この部下。
「行ってくる。大人しく待ってろよ」
「は、はい。どうか、お気をつけて」
二、三言会話したのみで、阿伏兎は扉のあるこちらに向かってきた。擦れ違う瞬間、阿伏兎が呆れたように俺を見た。そして俺は口を開く。
「邪魔してごめん、わざとだけど」
「アンタもまァ、よくやってくれるぜ」
そう言って部屋を出て行く部下に、俺は浮かべていた笑みを深めた。邪魔者はいなくなった。ベッドに居たままの女が不安そうに俺を見ている。さて、名前。
「代わりに俺と遊ぼうか」

20100227 / 邪魔してごめん、わざとだけど
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