「か、神威さ、待って」
「待てない」
神威さんと結婚して初めて過ごすその日の夜。所謂初夜である。
私はベッドに組み敷かれていた。やめてと言っても、シーツに私の腕を縫い付ける神威さんの手の力は増すばかり。
初めてだった。今まで付き合っている時も一緒に寝た時はあって、何度かやはりセックスを望まれた事もあった。だが、やめてといえば仕方なく止めてくれる神威さんだったのに、今日は違った。
「神威さんっ、」
薄暗い部屋の中で見える彼は普段の彼じゃなくて、男の顔をして私の衣服を乱していく。どんどんと不安が私の胸内を支配していった。
私はセックスの経験は無い。だから怖かった。今まで神威さんにお預けをしてきてしまったのも、その理由である。
乱された衣服が肌蹴て私の胸元が露になる。そこへ顔を埋める神威さん。恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった。
止めてくれる気配の無い相手に私も本気になって抵抗してしまう。しかし私の力で神威さんに敵う訳はもちろんなくて、ただ脚をバタつかせて首を振った。
「いやっ、神威さん!」
こんな怖い神威さんは知らなくて、目元に涙すら滲む。必死になって名前を呼ぶと、彼は不意に頭を上げて私を見た。その表情にはいつものような余裕は無く、ぎらりとした瞳が私を捉えている。
「ひっ、」
その獣のような男の顔に思わず声を上げてしまうと、神威さんは苦笑を浮かべて私の頬にそっと触れた。
「俺が怖い?」
「っ、」
するりと撫でる神威さんの手の優しさに、肩の力が自然と抜けていく。
「お前が欲しいんだ」
縋るような視線を私に向けられ、その眼と言葉にきゅんと胸が熱くなるのが自分で分かった。
「名前の心も身体も、全部」
私の頬を撫でていた彼の手はどんどん下がって、指先で身体のラインを辿っていく。視線は交わったまま今度は手の平が腰裏を滑った。くすぐったいような、気持ちいいような、じんと身体の中心が熱くなっていく不思議な感覚にごくりと息を飲む。
同時に神威さんの生温かい舌が、下腹部に触れた。
「っふ、」
ひくりと喉を反らす。一瞬外してしまった視線をまた神威さんに戻せばまた獣のような眼で私を見ていた。しかし最初のように怖さはもうなくて、ただ彼に全てを任せてしまいたいような、そんな感覚が生まれていく。そして彼は私に、とどめを刺した。
「俺に、ちょうだい。名前」
「っ、」
純粋な子供のように、はっきりと言ってのける彼。だけど暗い照明に照らされる妖艶な表情に私は完全に囚われてしまった。
「、っあ、あ、神威、さん」
「名前、好きだ、っ名前」
「ああ、あああっ」
初めてのその行為はまるで、繋いだ手も、呼吸も、感覚も全部、神威さんと一つになっているかのようで。じんじんと下腹部が熱くなった。
見詰め合う瞳にはお互いしか写らなくて、このまま一緒になって溶け合ってしまいたかった。

20100316 / 溶け合う
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