どんな人生であれ、最後は笑顔で送ってすこやかに。
それは俺の殺しの作法。それを知っている団員達の中には俺が笑いかけるのが怖いと言う者すらいる。

「神威さん、やっと見つけました」
窓から見える広い宇宙の景色を肴に酒を嗜んでいると、不意に名前の声が響いた。何やら思い詰めた表情を浮かべる嫁の姿が目に入った。
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
手招きしてやりながら言うと女は心底安心したように笑って俺に歩み寄った。その手を引いて抱き寄せると応えるように女も背中に腕を回してくる。
「姿が見えなかったから、探してたんです」
ぎゅうと強くしがみついてくる名前。一体どれだけ探し回って走ったんだろう、肩が僅かに上下していた。
時折名前はこうやって俺の姿が見えないのをとても不安がる。そして必死になって俺を探す。他の女だったらそうされるのはとても不愉快で仕方が無いが、この嫁の場合は話が別だ。不安にさせてしまったのを申し訳なく思って、身体を強く抱きしめた。
「ごめんね」
「いいんです」
その不安が取り去られればすぐに綺麗な笑顔で笑ってみせて、決まってそう言う。とても出来た女だと思う。あまりにしつこいのは、俺も好きではないから。それでも、やっぱり。
「お前の場合は、特別なんだけどな」
「え?」
「はは、なんでもない」
もちろん名前は言葉の意味が分からずにきょとりとして首を傾げた。その姿が可愛くて、思わず小さく笑ってしまう。するとコイツはそんな俺を見てまた微笑んだ。そして、俺にとっては衝撃的な言葉を女は軽々しく口にする。
「神威さんの笑顔、安心します」
コイツに驚かされる事は結婚した今でも度々ある。
俺が束ねる何百といる部下が揃いも揃って俺の笑顔は怖いというのに、この女は安心すると口にした。部下に何と思われようが関係は無いが、しかしまさか安心するなどと言われるとは思わなかった。
「ねえ、お前は俺の作法知ってるよね?」
俺が聞き返すと、名前は慌てたように顔の前で両手を振った。
「もちろん存じてます!え、と、違うんです」
「なに?」
「手を掛けるときに笑いかける神威さんの笑顔と、気を許していらっしゃるときの笑顔はやっぱり全然違います。…神威さんが私や部下さんに向けてくださる笑顔は、大好きです」
この女には適わないと思った。できる女だ。僅かな変化すら見逃さない。気付いて貰える事が、柄にもなく嬉しかった。
「ありがと。愛してるよ、名前」
そう言って女の大好きと言う顔を見せてやれば、また名前はとても綺麗に微笑んだ。

20100310 / 微笑む
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -