私の旦那様は、とてもモテる。
それは私が神威さんに出会った頃から、結婚した今でも言い寄る女性は数知れず。どこぞのホストとやらも顔負けだと思う。そして神威さんの機嫌さえよければそれを邪険に扱わないことも原因だとは思うのだが。しかし私を想ってくれる気持ちはとても大きくて、浮気なんて頭にはないと信じている。

「お酒お注ぎしますわ」
「マッサージいたしましょうか、神威様」
団員達での宴会の中。それは力だけが全てで個人主義の者が集まる春雨では珍しい行事で、皆ここぞとばかりに羽目を外す。妻として隣で神威さんのお酌をしていた私も、酒が入った女性団員さん達にその役を取られてしまった。神威さんはあまり酔ってはいないだろうけど、やはり地球産の御飯に気分がいいのか特に邪険にする訳でもなく黙って酒と料理を嗜んでいる。
その様子を私は、部屋の隅から見つめていた。いくら力が全てといっても団長という立場というものは大事だし、部下の支持を得るのはいい事だと思う。しかし、やはり見ていて気分のいいものではなかった。
そんな中不意に影がかかり、顔を上げると猪口を持った阿伏兎さんが私を見下ろしていた。
「よお。お隣いいですかね、奥さん」
「…その奥さんっていうのやめてください。阿伏兎さんが言うといやらしいです」
「どういう理由だそりゃ」
私が冗談交じりに言いながら隣にスペースを空けると、彼は苦笑を浮かべながらそこに腰を降ろした。
私が一人で居場所を無くしている時にやってきてくれるのは決まって阿伏兎さんだった。それはこの船に大して知り合いもいない私への配慮と、他の男に絡まれるよりまだ彼の方が神威さんの機嫌を損ねずに済むからだそうだ。
「お注ぎします」
持っていた猪口は空のようで、傍らに置いてあった徳利から彼の猪口に酒を注いだ。阿伏兎さんはありがとよ、と言って美味しそうにそれに口をつける。
「アンタもよく頑張るな」
「え?」
不意に言葉を紡いだ阿伏兎さんを見て私は首を傾げた。彼の視線の先には女性に囲まれる神威さんの姿。どうやらあの人関係の話のようで、同じように神威さんに視線を向けた。
「結構キツイだろ、毎度あんなもん見せられてりゃ」
「…」
神威さんを真っ直ぐ見つめたまま、その質問には答えなかった。辛くないと言ったら嘘になる。できるなら、神威さんのあんなところ見たくなんてない。けれど私は、大丈夫。
「私、性格が悪いんです」
「は?」
だって。だってもうすぐ。
「ちょっと阿伏兎、」
ほら、神威さんはこちらに気付いて、
「げ、団長」
「誰の嫁に手出してるんだよ、殺しちゃうぞ」
皆の前で、颯爽と私の手を引いてくれる。
それがとても嬉しくて。単純な私は、これだけで自惚れてしまう。だから簡単に憂いも晴れてしまう。そして私は神威さんに手を引かれるままに大部屋を後にした。
「…は、そういうことかい」
呆れたような阿伏兎さんの言葉も、耳に届くことのないまま。

20100310 / 自惚れる
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