神威さんのお嫁になってから結構の時が経つけれど、こればかりはやはり慣れることは無かった。
それはあなたの帰りを待つということ。

「遅いなあ」
任務に出た神威さんの帰りを待って数日。結婚してから神威さんが度々任務で長期不在にする事は少なくないが、やはり待っている間は寂しい。だからって戦闘が得意ではない私が着いていく訳にもいかずとてももどかしかった。
そしてやっと、今日戻るという連絡があったと団員の方から聞いて私は朝から待ちきれずに心が浮つていた。彼を気持ちよく迎えられるよう、お部屋のお掃除もした。隅から隅までピカピカ。ゆっくり休めるようにベッドのシーツも綺麗なものに代えたし、神威さんの大好きな地球のご飯だって沢山作った。お風呂だってもう沸いている。
後は主を迎えるばかりなのに、当の神威さんはまだ帰らない。目の前に並んだ料理達を眺めながらテーブルに両腕を置いて顔を伏せると、朝から張り切りすぎていたせいか疲れがドッと押し寄せた。どんどんと瞼が重くなる。
「ん、」
神威さんは任務で私以上に疲れているのだ。妻の私が先に寝てはいけないと思いつつも両の瞼はくっついて離れてくれず、そしてそのまま深い眠りに落ちてしまった。


ぱたん。
遠くで、扉が閉まる音が聞こえた。
夢心地から覚醒していくように瞼をゆっくりと上げて、上体を起こして辺りを見回した。すると部屋に備え付けの浴室から出てきた様子の神威さんと目が合う。同時にぱさりと私の肩にかかっていた布が落ちた。
「あ、名前起きた?」
「か、神威さんいつの間にっ、私、寝ちゃって、」
漸く自分が眠ってしまっていた状況に気付き慌てて立ち上がるが、寝惚けた頭はまだうまく働いてくれずに焦るばかり。
「うん、よく寝てたよ」
「ご、ごめんなさい、わたしっ」
乱雑に頭をタオルで拭きながら神威さんはにこやかに言って椅子に座った。私は謝罪を述べながらもとりあえず御飯を温め直そうと歩を進めたところで、足に引っかかった布に気付きそれを拾った。
そういえばさっき私の肩から落ちたものだ。しかし自分で羽織った記憶は無い。
「これは神威さんが?」
「ああ、寒そうだったから。お前体弱いんだから風邪引いちゃうだろ」
そう答える神威さんから手に持った布に視線を戻す。無意識のうちに顔が緩んでしまった。他の人には到底見せないような彼のこの気遣いが、私は本当に嬉しかった。
大事にされているのだと、実感出来る瞬間。
「ね、それよりさ。こっち来てよ、名前」
にこにこと笑って手招きする神威さんに首を傾げて近付く。腕を掴まれたかと思ったら、いきなり引っ張られた。
「!」
その弾みに持っていた布を落としてしまう。
そしてそのまま神威さんの膝に座る形になってしまった。ぎゅうと抱きしめられ、上半身に何も纏っていない彼の肌が近付いて思わず視線を逸らす。
「か、神威さん」
「あー名前の匂い。安心する」
私の肩口に顔を埋めて深く息をする彼にますます心臓は早鐘を打っていく。暫くそうしていた神威さんは満足したのかゆっくりと顔を上げた。
「ねえ、俺、帰ってきたよ」
「え、」
その言葉の意図するところがいまいち分からず、また首を傾げた。
「俺、どんなに任務が大変でも、どんなに時間がかかっても、お前のところに帰ってくる。絶対に」
一言一言紡がれる言葉を聞いているうちにやがてひとつの考えに行き当たり、私は堪らず笑った。
彼は意地っ張りで、感情の伝え方が下手な人だから。分かりにくいこれは彼なりの甘え方なのだ。
神威さんの頬を両手で包んで触れるだけのキスを贈る。そして、
「お帰りなさい、神威さん」
言ってあげると神威さんは本当に嬉しそうに笑った。そして必ず言うのだ。この瞬間、待っていた間の私の憂いもすっかり晴れてしまう。
「ただいま、名前」

20100305 / 待つ
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