君に、言えなかったことがあるんだ。
さびしくてさびしくて、きっとあの時の俺はどうかしてしまっていた。素直にお前にさびしいって言えてたら、と今では思う。だってそんな感情を俺が持ち得るなんて思わなくて。


名前に言われた通り俺はとりあえず自分の部屋に戻ったが、ベッドに横になって暇を持て余していたところに珍しく俺の部屋に来客があった。魔が差した、んだと思う。
「あ、ああっ、神威様っ…」
昔抱いた女だった。いつだったか、名前は何だったかよく覚えてないけど。お暇でしたら抱いてくださいと言うから。
名前と付き合って以来の雌の香り思わずベッドに歩み寄るその女の腕を引いて組み敷いた。
最中女が声を絶え間なく出すからその口を拳で塞いだ。そして俺は目を閉じて下半身のみに集中する。そうして頭の中で愛しい女を考える。時々鼻を掠める香水の匂いがうざったかったけど、まるで名前を抱いているようで気持ちよかった。
頭の中は欲を発散する事でいっぱいで、すっかり忘れてしまっていた。この後名前が俺の部屋に来ると言っていたこと。
やることが終われば早々にその女を部屋から追い出した。こんなとこ名前に見られたら、なんて軽い罪悪感があったと思う。そしてしばらく経った後やっと名前が俺の部屋に来た。なんとなく目元が赤い気がした。
「名前、遅いよ」
「ご、ごめんなさい。なかなか終わらなくて」
「おいで」
両手を広げて言う俺に少し戸惑ったような顔をした後におずおずと腕の中に入ってきた名前の香りはさっきの女とは全然違って心地いいものだった。これだけで落ち着くのはやっぱりコイツが俺の大事な女だからなんだろうか。それとも溜まった欲を発散したばかりだからだろうか。
「神威、さん」
「ん?」
「…え、と」
歯切れの悪い言い方は好きじゃない。そう言えば名前は慌てたような困ったような表情を浮かべた。ほんとは名前だったら許せるけど、敢えて言わないでおいた。せめてそれを言っておいてやればよかったとあとで思う。
「…好きです」
「え、」
「好きです、神威さんが」
真っ直ぐ見つめて名前が言う。正直驚いた。いつもは恥ずかしがってなかなかそういうことは言わないタイプだったから。なぜこの時珍しく言葉にしたのかと、名前の気持ちを深く考えてやれなかった。
「うん、俺もだよ。名前」
言ってやると名前は安心したように微笑んで、しかしすぐにその顔を曇らせてしまいながら俺に抱きついた。触れ合った肌がただ嬉しくて、俺はやっぱり名前の表情の意味を深く考える事はしなかった。

ごめん。
あの時お前の気持ちに気付いていたら、せめて謝る事ができていたら。

20100224 / 「ごめん」
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テーマ「人外ファンタジー」
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