君に言えなかったことがあるんだ。

弱い存在に興味は無かった。初めての任務先での殺伐さに足を竦ませた君。命を軽く見る俺を怒った君。団員の女を性欲処理に使っていた事を嘆いた君。返り血で濡れた俺を見て泣いた君。
そんな弱くて何の取り柄も無い君を、いつからだったか。守りたいと思うようになった。抱きしめたらすぐに壊れてしまいそうな君が本当に大事だと思った。
でもやり方が分からなかった。


「名前ー」
「きゃあ!」
書類を持って廊下を歩く後姿を見つけて思わず抱きついたら、名前は大きな声を出して体を硬くしてしまった。付き合い始めてもう二ヶ月程経つというのにスキンシップにすらまだ慣れないらしい。こんな初な反応をする女は今まで俺の周りにいなかったから新鮮だった。というか俺がそういう女は面倒だったから。
(もちろん、名前は特別だ)
(そういえば付き合ったその日の夜に手を出そうとしたら本気で泣かれたっけ)
「お、驚いた…」
「ごめんごめん。名前の背中隙だらけで可愛いんだもん」
女独特の柔らかい身体が気持ちよくて頬擦りしたら髪からリンスのいい香りがした。香水臭い女より、この心地いい香りにとても欲情してしまう。
「あのさ、俺暇なんだよ。遊ぼうよ。」
「えっ、」
「心配しなくても、ヤろうとか殺ろうとか言わないから」
「でも、私この書類を阿伏兎さんに届けないといけないんです」
「えー阿伏兎?いいよそんなもの俺と遊ぼうよ」
「でも…」
言いかけて名前は困ったように視線を地面に落とした。俺の言葉に逆らえないんだろう。でもとても生真面目な性格をしているコイツの事だ、きっとまずはやるべきことを優先する。それはどうやら、力の無い自分ができる事をせめてきっちりとやらなくてはという心情の表れでもあるらしい。
しかし俺は面白くない訳で。こいつと付き合ってから女に一切手は出してないし、かといって名前がヤらせてくれる訳ではない。だったらこういう時くらい俺にかまってくれてもいいじゃないか。いつもいつもお仕事がお仕事がって、ちっとも面白くない。
「仕事と俺とどっちが大切なんだよ」
「そ、それは…えっと、そうだ!お部屋で待っていてください、これを終わらせたら私、すぐに神威さんのところに行きますから!」
女みたいな弱いことを言ってしまった俺に、ね?と、名前が可愛い笑顔を浮かべて答えた。そしてそのまま、すぐ行ってきますから!と言って俺の体から離れ走り去っていく。
「…」
離れた温もりの余韻になんだか嫌な気分になった。こういう時なんて言ったらいいのかなんて分からなくて、代わりに醜い気持ちが生まれてしまった。

さびしい。
ただ、君にそばにいて欲しかったんだ。

20100222 / 「さびしい」
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