「姫ちゃん」
姫とは、私の源氏名である。その名を呼んだ店長は、何やら軽い足取りで私の元へ歩いてきた。
「はい。何か良いことでもあったんですか?」
「来た来た、また来てくれたよあのお客さん!頑張ってね」
上機嫌でぽんぽんと肩を叩く店長に、私は嫌な予感がして持っていたポーチを握り締めた。


「…ご指名、ありがとうございます。折原さん」
「やあ名前ちゃん。こんばんわ、今日も美人だ」
「ドンペリ頂きますね」
「加えて今日もツンツンだな名前ちゃん。まあいいけど。ロゼで」
私は折原さんが苦手だった。情報屋なんてものをやっているらしい奇特な人で、本人はただ人間が好きなだけだと話すけど実際のところは何を考えているのか全く掴めない。ただお金は持っているようで、この店での羽振りもとてもいい。更に外面がいいのかすっかり店長のお気に入りのお客さんとなっていて、邪険に扱おうものなら私が店長にお咎めを受けるハメになる。
「あの、本名を此処で呼ばないでくださいって何度も言ってるじゃないですか」
「あっははごめんごめん。ってことは二人きりの時ならいいのかな」
「…折原さんと二人きりになるなんて、想像しただけで虫唾が走ります」
「相変わらず冷たいなあ、…しっかりそのライターは使ってくれてるくせに」
胸元にはまっているライターに視線をやる折原さん。これは以前、彼にプレゼントされたものだ。
「お店用ですから。高価な物らしいですし」
「またまた、満更でも無いんだろ?ああ…でもそれをシズちゃんに使うのだけは止めて欲しいかな。気分が悪い」
「…何で平和島さんが来たって知って、」
「これでも情報屋だから。まああえて言うなら、」
「…」
「ライターに仕込んだ盗聴、」
私は折原さんの言葉が終わるより早く、そのライターをグラスに沈没させた。

20110403 / ホステスと情報屋
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