「ひひひひひ姫ちゃん!」
姫、とは私の源氏名だ。店長が何やら慌てて私に駆け寄ってきた。
「はい。そんなに慌ててどうしたんですか?」
「き、来てるよまた。例のあのお客さん」
その言葉に私は僅かに目を見開いた。


「ご指名ありがとうございます。…平和島さん」
「…よお」
奥の植木で少し隠れた席に、彼は案内されていた。まさか池袋最強の男…もとい喧嘩人形と恐れ慄かれている彼がこの店に居るとなれば…正直商売上がったりであるから、このような人目につきにくい席に通す事が多かった。
「また来てくださったんですね」
「帰り道だからな。ついでだ」
私は知っている。彼のお家はこちら方面でない事を。
早速胸ポケットから煙草を取り出すのを見て私も胸に挟んでいたライターを出したけれど(ちみにこのライターは折原さんから貰ったものだ)、さっと手を上げて遮られてしまった。点けられるのは相変わらず苦手らしい。
「何をお飲みになりますか?」
「何が飲みたい?」
「え?」
「給料、出たしよ」
「あ、」
「好きなもん飲め。いや、さすがにピンドンとか言われたら厳しいけどよぉ…安いシャンパンくれえなら俺でも、」
「じゃあ、カクテル頂きます」
困ったように頭を掻きながら紡ぐ平和島さんの言葉を遮り、私は口を開いた。途端に不機嫌そうに眉を顰める彼に、私は尚も言う。
「カルーアミルクがいいです。私、好きなんです」
「…」
「平和島さんも、カルーアミルクでしょう?」
「…」
「お揃いです、ふふ」
「…好きにしろ」
呆れているのか、くいとサングラスを中指で押し上げ顔を逸らした彼が私には照れているようにも見えて堪らず頬が緩んだ。
大事な大事な、私のお客さんのひとりである。

20100403 / ホステスと喧嘩人形
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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