「おい雌豚」
「…」
「お前、土方コノヤローの事好きだろ」
「なっ、」
隊長に、バレてました。明らかに動揺してしまいました。
「な、なにをいきなり」
「雌豚がいっちょ前に恋か。くだらねーなァ」
「隊長には関係、」
「土方ァァァ!決闘だァァ!」
私の話も聞かず隊長は、副長室へ突っ込んでいった。

そして意味がわからないまま始まった副長と隊長の決闘を、私は道場の隅から見つめていた。どこから噂を聞き付けたのか知らないが、周りにはギャラリーが騒いでいる。道場の真ん中で木刀を持って睨み合う男が二人。
「なんの決闘だこりゃ」
「そんな事、これから死ぬ土方さんには関係ないでさァ」
「…」
「行きます」
ぎらりと隊長の目が光った。勢いよく踏み込んでいく隊長に、土方さんは防戦を続けていく。
「…土方、さん」
胸元をぎゅっと握りしめる。
隊長の剣の実力は私も知っている。土方さんが負けるところは見たくないが、怪我でもしないかとハラハラしていた。
じっと土方さんを見つめる。
すると、
「っ、」
不意に、瞳孔の開いた大好きな彼の瞳と目が合う。私はドキリと体を揺らした。そしてその一瞬の隙を狙い、隊長が口を開く。
「余所見なんて、随分余裕じゃないですか」
「!」
隊長の木刀が土方さんのそれを弾き、そのまま土方さんの鼻先に切っ先が突き付けられる。隊長がニヤリと笑った。
「俺の勝ちでさァ」
「…チッ」


「土方さん」
濡れたタオルで汗を拭う彼の背中に、声をかけた。
「…」
「大丈夫ですか」
「…」
「すみません、あの…」
あの時隙を作ってしまったのは、私の責任だろうと考えていた。あれさえ無ければ、土方さんが負けはしなかったのに。私はそれを謝ろうとするも、何故か言葉が続かなかった。
俯いていると、土方さんの足がゆっくりとこちらを振り向いた。
「…てめぇのせいだとでも思ってんのか?」
「…」
「自惚れんな。…たまたま不調だっただけだ」
「…」
土方さんは言い残し、俯いたままでいる私の前から去っていった。足音が、やけに耳についた。
土方さんの言葉はまるで私を拒絶しているように聞こえて、目頭が熱くなった。

20090711 / たまたま不調だっただけだ
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