俺の席は窓際の一番後ろだった。

授業中教師のくだらない内容を話す声が耳に入らなくて、机に頬杖をついて窓の外に視線をやると気持ちいいくらいの晴天が見えた。眩しくて校庭に目を下ろしたら、名前のクラスが何やら運動をしている。
彼女は他と比べて比較的身体が弱く、昔から体育は休んでいる事が多かった。例に漏れず名前は隅で見学しており、その隣には一回り大きな背中があって思わず眉を顰める。彼女と静ちゃんは同じクラスだった。静ちゃんも静ちゃんで、その並外れた体力で体育には滅多に参加させて貰えないらしい。それには納得がいった。しかし何故見学をわざわざ名前の隣でする必要が有るのか。そこが気になった。
(まあ、名前が声を掛けたんだろうって事は安易に想像できるけど)
同じ時間と景色を共有して、二人は今どんな会話を交わしているんだろう。笑っているのか時折、彼女の肩が揺れた。こちらに背を向けて座っているせいでその表情は窺えない。今すぐあの場所へ駆け寄りたくて、苛々と机を爪で打った。
名前に何かしたら殺してやろう。
そう思いながら見詰めていると、ふと静ちゃんの手が彼女の頭を撫でるのが目に入った。あの男が、あの怪物が、まさかあんな風に柔らかい手つきが出来るなんて思わなくて目を丸くしたのも束の間。名前が静ちゃんを向いて漸くその表情を見る事が出来た。同時にキイ、と、机に立てた俺の爪が鳴く。
見なければよかったとは思わない。だってその顔はこの俺ですら見た事の無い愛しい彼女の表情で、ただそれを引き出すのが自分では無かった事にどうしようも無く胸が苦しくなって。目頭が熱くなった。ああ、名前、君は本当に。

20101104 / しあわせそうに笑うんだね
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