副長に、恋をしました
それはある場所で会合をしているという攘夷浪士達を一斉検挙しようと、真選組が出動した時の事。
「ふ、副長っ、ドキドキします」真選組に入隊し、沖田さん率いる一番隊に配属されてから少し。市中見回りや雑用をこなしてきた。大きな仕事はこれが初めてだったのだ。
中に居るであろう敵にバレないよう待機しながら、私は裏口にいる土方さんに無線で伝える。少しの間があった後、耳に装着してあるイヤホンがガガ、と音をたてた。
「弱音吐いてんじゃねぇ、お前なら大丈夫だ」
「でもでも、うー」
「少しでも迷いがあると死ぬぞ」
「は、はい」
ぎゅうと、刀を握った。ごくりと息を飲む。突入の掛け声はまだ無い。
土方さんは私がこうして待機している間にも、皆に指示を出したり突入の機会を伺ったり。やる事はたくさんあるのだろう。素直に、凄いなぁと思った。私にはとてもできない。
私は静寂が不安になり、再び無線で土方さんに声をかけた。
「ひひ、土方さん土方さん」
そしてまた、イヤホンからノイズが聞こえる。
「、うるせぇな今度はなんだ。もう突入まで秒読みだぞ」
突入という言葉に肩に力が入るも、私は言葉を続けた。
「副長は、こわくないん、ですか」
ああ、だらしない事言うなって叱られるだろうか。呆れられてしまうだろうか。でも不安なんだ。だって私はこわい。
イヤホンから鼻で笑うような土方さんの声が、ノイズ混じりに聞こえた。そして、
「この俺を誰だと思ってる。俺を信じろ。…突入だ!」
体が、反射的に動いた。後の事はよく覚えてないけど、土方さんの言葉で迷いは一切無くなっていた。



「ふくちょー!」
無事、検挙も終わり。重傷の負傷者はいないまま解散を告げられ、私は一番に土方さんに駆け寄った。煙草をくわえたまま彼がこちらを振り向く。その姿すらとても様になっている。ぺこりと頭を下げた。
「お疲れ様です!」
「おー。よくやったな」
「土方さんのおかげです」
「はっ、だから言ったろ」
ガシガシと頭を撫でられ、私は嬉しくて微笑んだ。そして土方さんも笑う。その顔に、なんだかとても安堵した。
素敵だった。格好よかった。
私は純粋に、土方さんに恋をしたのだ。

「俺を信じろ、ねぃ。土方コノヤローのくせに格好つけかよ」
「総悟、てめ聞いてやがったのか!」
「残念ながら、無線は全員共通なんですぜ」
「…(忘れてた)」

20090710 / この俺を誰だと思ってる
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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