あれから何年経ったのだろうか。
彼女と別れてから色々な事があった。薫殿に出会い、たくさんの仲間が出来、たくさんの戦いをして、巴に、別れを告げた。拙者は最後のやるべき事を果たす為に、今この土地を訪れていた。といっても、未だに彼女がこの場所に留まっていると確立は無い。それに、もう。
「拙者の事は、忘れてるかもしれんな」
空を仰げば、ざあと桜吹雪が頬を撫でた。歩みを進めていけばその頃拙者が彼女と出会った甘味処があった場所に辿り着く。
「これは、」
しかしそこに昔見た店の面影は無く、ただの空き家になっていた。唯一の手掛かりが無くなりどうするか、と考えていればふと隣を一人の年老いた女性が通り掛かる。見間違うはずも無い。この女性は、甘味処に居たあの、。
「、御免、そこの方」
「はい?」
「もしかして御仁、昔あったここの甘味処の、」
「!、あんた緋村くんかい?」
声をかければその女性は拙者の姿と声に思い出したように言った。その言葉に頷くと、とても嬉しそうに笑った。
「まさかあの子を迎えに?」
「約束で、ござるから」
名前から聞いたのか、まるで約束をした本人のように喜ぶ女性に微笑んだ。
「この店は閉めてしまったでござるか?」
「まさか。場所を変えて、今はあの子に店主を任せてるんだ」
「元気で、やっているようですね」
「当たり前だよ、ついておいで」
女性の言葉に安堵し、拙者はそっと胸を撫でおろす。言われた通りに案内する女性についていけば、昔聞いたままの彼女の笑い声が耳を掠めた。ここだよ、と言う女性の声に顔を上げれば、そこの店には昔見た暖簾に甘味処と書かれた紅い旗。早くなっていく心臓を抑えられずに、拙者はその店の様子を窺った。すると、
「ありがとうございましたー」
客を店先まで送り、ぱたぱたと店から出てくる一人の女性。その姿に、思わずごくりと喉を鳴らした。
「、名前!」
また中へ戻っていこうとする彼女の名前を呼んだ。すると彼女はビクリと肩を震わせると、ゆっくりとこちらを振り返る。目が合えば、彼女は信じられないといった風に両手で口元を覆った。そんな昔と変わらない可愛らしい彼女に、拙者は小さく笑みを浮かべて。
「約束を果たしに来た」
言えば名前は、はらはらとその瞳から涙を流した。

店主を任されている名前はあの時のように早上がりなどできる訳もなく、拙者はのんびりと店先で彼女の仕事が終わるのを待っていた。久しぶりに食べた団子の味はあの頃から何も変わりは無く、懐かしい思いに浸らせてくれた。時折名前と目が合えば、ふたりして照れたように笑い合ってその度に周りに冷やかされてしまった。
「緋村さん、お待たせしました」
「おろ、早かったでござるな。お疲れ様」
「緋村さんが居るんですもの。そりゃ急いじゃいます」
にこりと笑う少し大人びた彼女の笑顔は、昔と変わっておらず拙者の心を暖かくしてくれる。それが嬉しくて、ぽんぽんと彼女の頭を撫でた。そうして二人して夜道を歩き出す。しばらく歩けばふと名前が裾を摘んできた。
「…本物の緋村さんだ」
「偽物だと思ったのか?」
「いえ、だっていきなりだったから」
「よかった、まだ拙者を覚えていてくれて」
「拙、者?」
名前はきょとんとした顔でこちらを見た。拙者はハッとして頭を掻く。
「あ、これは癖で…」
「緋村さん、雰囲気変わりましたね」
「そう、かもしれん」
「緋村さん、ここ覚えていますか?」
顔を上げれば、そこは昔二人で団子を食べた河原だった。最後に逢った場所でもある
懐かしい景色に目を細めてその景色を見つめた。
「わたし、ずっと待ってたんです」
「名前…」
「約束、まだ果たされていませんよ?」
悪戯っ子のように笑って顔を覗き込んでくる彼女。こんな顔も可愛いと思ってしまう辺り、かなり末期かもしれない。苦笑をひとつし、そっとその細い腰を引き寄せた。
「名前が好きだ。俺と暮らそう」
期待の篭るその瞳を見つめて囁けば、それはだんだんと水を帯びて。。一瞬揺れて水が頬に零れた。その時に浮かべられた彼女の笑顔は、一生忘れる事はないだろう。
「はい、っ」
そして一生、この笑顔に救われていくのだろうと思った。

20090618修正 / 彼女の笑顔・再会
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