「何、これ」
久しぶりに宿屋に泊まれたのだから皆の荷物の整理でもしよう、と名前は。早くもそれを激しく後悔していた。

代えの服や日用品、ばさばさと整理していきながら#名前#はふと見慣れない布袋を見つける。不思議に思いそれを豪快にひっくり返してみれば、そこから出てきたのは。
「何でこんなものがあるのー!」
多数のアダルト雑誌やアダルトビデオであった。それを目にした名前は思わず叫ぶ。部屋の中で思い思いに過ごしていた4人は何事かと名前を振り返り、彼女の目の前にあった物を見て"やばい"と眉を寄せた。
「やっべ、見つかった」
「悟浄、捨てておきなさいと言いましたよね」
「やばいじゃん!どうすんの!?」
「…チッ」
ふるふると肩を揺らす名前の背後で、4人はコソコソと体を寄せる。すると名前はすばやくそちらを振り返り、目を細めた。
「なぁに、これ」
「いや、まー名前ちゃん落ち着いてよ」
「悟浄のなの?」
「ま、というか、なァ」
ちらりと、悟浄は他3人を見やった。しかし3人は全く我関せずといった様子で、すでにそっぽを向いていた。三蔵なんかは話題に入らないようにしているのか、新聞を開いている。
(…見捨てやがったな)
悟浄は内心舌打ちをした。
「やっぱり悟浄のなのね!」
「いやいやいや!俺だけじゃねぇって!」
「!」
ずいと詰め寄った名前迫力に悟浄は慌ててそれを否定した。名前はその言葉に、次は八戒を振り返る。ギクリと、八戒は視線を感じて体を揺らした。
「…八戒」
「ど、どうしました?」
「八戒も見るの?」
「いや、まぁ、何と言いますか」
「見るのね!」
「、すみません」
やはり名前の迫力には勝てないのか、八戒ですらバツが悪そうに頭を掻いた。その様子に#名前#はがくりと肩を落とす。そして次に、悟空をちらりと見た。
「…まさか悟空」
「…」
名前から申し訳なさそうに視線を逸らしたまま、悟空は何も答えなかった。"見ない"と言えば、嘘になってしまう。しかし"見る"とも言えない。本当の事は言う気はないが、嘘だけはつけない悟空の精一杯のごまかしであった。
「…三蔵?」
"悟空もなのか"、と更に肩を落とす名前は、最後に恋人に視線をやった。しかし三蔵は新聞を開いたまま彼女を見ようとはしない。(シラを切るつもりか)、と誰もが思ったその時。三蔵が小さく舌打ちをした。そして視線だけを名前に向ける。
「ンなもん男なら誰でも見んだろ普通」
(((男らしい…!!)))
と、男子3人の思いが一致した時。ついに名前の怒りは爆発した。
「お前ら全員出てけー!」

そして。
「あーあ、追い出されちまった」
「どうすんだよ、名前怒っちゃったじゃん!」
「迂闊でしたね、まさかあれを見つけるとは」
「チッ…」
部屋を追い出された4人はブツブツと街を歩いていた。
「悟浄なんかに頼まないで、僕が処分しておくべきでしたよ」
「へーへ、俺が悪ぅございました」
「あーもう俺名前に絶対嫌われた、悟浄のせいだ!このゴキブリ河童!」
「ンだとこの猿!」
「はいはい、往来で騒がないでください。でも本当に名前を宥めないと部屋帰れませんよ」
八戒の言葉に、4人は大きな溜息をついた。どうするかと思案し、やがて悟浄が顔を上げる。
「ここはやっぱ、三蔵様が何とかするしかないんじゃね?」
「何で俺が」
「まぁ、やっぱりそうなりますかね。恋人の三蔵が見ていたというのが、彼女にとって一番気掛かりではあるでしょうし」
「そっか!さんぞー頼む!」
「三蔵も、名前の事気になっているでしょう?僕達は、頃合いを見計らって宿へ戻りますから」
「…チ」
3人の押し付けに等しい案に三蔵は、再度溜息をついた。

その頃名前は。
「もうっ、ばかばかばか!」
ベッドに寝転がって暴れていた。
「三蔵も三蔵よっ、何が男はみんな見るーよっ、坊主のくせに開き直って」
手足をジタバタとさせた事に疲れたのか、ぎゅぅと枕を抱きしめ文句を口にした。ちらりと、先程の雑誌やビデオに目をやる。
「別に、見るのが駄目ってわけじゃないけど」
やはり健康な男子であれば興味があるのは当然である。皆だって、三蔵だって男なのだ
それを見るなとは言わない。だがしかし、名前は三蔵と付き合ってはいるものの、今まで抱かれた事は無かった。いつもキス止まりだったのだ。手を出してこない割にこうゆうものは見るのかと。自分には魅力が無いのだろうかと。ゆっくりと、その雑誌を手にとりぱらぱらとページをめくってみる。そこに写っている水着の女性達は、やはり美人で、胸が大きく腰の括れた女から見ても魅力的な人ばかりだった。
「三蔵も、こうゆう女の人を抱きたいのかな」
はぁ、と溜息をついた。自分の体を見下ろしてみれば、胸はお世辞でも大きいとは言えないし、雑誌の女性のようにすらりともしていない。もっと自分が魅力的であったなら、三蔵もやはり違っていたのだろうか。
「うー、」
そこまで考えて、名前はついにぼろぼろと涙を流してしまった。と、その時。
「何泣いてやがんだ馬鹿女」
ビクリと肩を揺らし名前が振り向けば、そこには三蔵が呆れて立っていた。ぐっと口をつぐみ袖でゴシゴシと涙を拭き、また背中を向けてしまう。
「泣いてないっ」
「…(どこがだよ)」
ベッドに座る名前に歩み寄ると、そこには開かれた雑誌の姿があり、三蔵は怪訝そうな表情を浮かべて口を開いた。
「お前、まさか女に興味が」
「ある訳ないでしょ!」
「じゃあ何で見てんだ」
それ以上名前は喋らなくなり、三蔵は大きく溜息をつく。その溜息にまた名前の肩が揺れた。
「…ったく」
三蔵は彼女に隣に腰掛けるとその雑誌を手にとり、ぱらぱらとページをめくった。しかし全く興味の無い様子でそれを床へ投げ捨てると、名前の腰をゆっくりと抱き寄せていく。
「…」
名前はそれに抵抗することなく、すっぽりと体が三蔵の腕に収まってしまえばおとなしく体重を預けた。そしてやがて、名前が渋々と口を開く。
「三蔵、は」
「なんだ」
「三蔵は、ぼんきゅっぼんの美人が好きなの?」
「あ?」
何を言ってるんだと三蔵が名前の顔を覗き込めば、また泣き出してしまいそうな瞳と目が合う。
「私なんかじゃ魅力がないから、ああゆうの見るの」
次がれた言葉に三蔵はやっと意味を理解し、眉を寄せた。
「魅力がないから、抱いてくれないっ、」
言葉が終わるより早く、三蔵は顎を引いて口付けていた。いきなりのそれに名前は驚き目を見開くと、僅かな唇の隙間から三蔵の舌が侵入しゆっくりと歯列をなぞった。
「、ん」
口を開けば、更に進入した舌は#名前#のそれを絡めとり柔らかく口内を犯した。
「…ん、ん」
やがて充分に口付けを堪能した後三蔵は唇を離し、コツリと額を合わせた。吐息がかかる程の距離にある三蔵の顔に、名前は困ったように頬を赤く染めた。
「くだらねェ事気にしてんじゃねぇよ」
「く、くだらなくなんか」
「くだらねぇ」
そう強く言われてしまえば、名前はまた泣きそうになって目を伏せた。
「言っとくけどな、お前と付き合ってからはあんなモン見てねェ」
「え、」
「他の女の裸見てもつまらん」
「で、でも、じゃあ抱いてくれないのは何で」
その言葉に、三蔵は呆れたように溜息をついた。そして柔らかく名前の髪を梳く。
「大事にしてんだよ。分かれ馬鹿女」
三蔵の言葉に、名前は目を見開いた。まさか三蔵がそんな風に考えてくれていたとは思わずに、今度は嬉しさから涙が零れそうになる。
「泣くなよ、面倒くせェから」
「…、三蔵が悪いんじゃん、っ、ばか」
「フン」
「…だいすき、三蔵」
「んな事は知ってんだよ」
「…じゃあ、愛してる」
「ああ…俺もだ」

(なぁ、解決したのはいいんだけど、すっげー入りにくいんだけど)
(三蔵様よくあの状況で我慢出来んなオイ)
(愛、ですかね)

20090701 / 男子の事情
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