ひょんな事から、シエル様のお屋敷で客人としてお世話になってから早数ヶ月。
大好きな大好きなセバスチャンさんに告白してOKをもらってから数週間。
片思いの頃とはまた違う悩みが、私にはありました。

「…」
今日も平和に一日が終わって、さあ寝ようかと整えられたベッドでごろごろとしててもなかなか寝付けずに。暗い闇の中考えてしまうのはやはりあの悩み。私はうんうん唸りながら枕に顔を埋めていた。
「今日も、なんにもなしかあ」
平和なのはよい事だ。私はそれが嫌なわけではない。ただ、付き合い始めて何週間か経つのに、ないのだ。彼から、なにも。OKしてくれた時には心が舞い上がった。彼の恋人になれたのだと。キスとか、ハグとか、口に出せないようなあんな事まで結構期待していたのだが。(別に欲求不満なわけではない)
未だに何もない。というか、彼は夜、屋敷にいない日があるという事実まで知ってしまった。いろいろとマイナスな考えが頭の中を駆け巡る。
「浮気…?そもそも、OKされてなかったとか」
そんな考えは解決しないままループしていくばかりで、またうんうん唸るハメになる。最近は毎日こんな悩みが続いている。くだらないかもしれないけど、私には重要なのだ。
「ああもう、セバスチャンさんの馬鹿!」
「人を馬鹿呼ばわりとは、いい度胸をしてらっしゃいますね名前様」
「、!」
ヤケになって叫んだその言葉に、返ってくる筈の無い返答。しかもいる筈の無い彼の声に驚いて、私はガバリと声のする方を振り向いた。しかし部屋に明かりはついておらず、窓から射す月明かりだけでは彼の姿は闇に溶けてなかなか見えなかった。
「セバスチャン、さん?」
不安になって目をこらして名前を呼べば、彼がゆっくりとこちらに近付いてくる姿を確認できて安堵の息を漏らして起き上がる。安心した矢先、月明かりに照らされて目に飛び込んできたのは。
「っ、セバ、どうしたんですかそんな、血がたくさん!」
服はボロボロで、紅い血を体に纏い、髪も珍しくすこし乱れている。
「お休みのところ申し訳ございません、貴女にお逢いしたくて」
私の質問には答えない彼が浮かべる笑顔には、いつもと違ってすこし疲労の色が見えた。嬉しいことを言われているのだが、尋常でない彼の姿に私はそんな事には気付けない。慌ててベッドから降り彼に駆け寄った。
「何をそんな、怪我、してないですか?!」
「ええ、私は大丈夫ですからお気になさらず」
「どうして、一体なにが、」
あったんですか、と聞こうとした言葉は。彼が私の体を抱きしめた事によって遮られた。
「っ、セ」
「ああ、落ち着きますね。名前様の香りは」
「は、え、っセバスチャンさん」
彼はそう言いながら私の首筋に唇を擦り寄せてきた。腰を抱く腕の力が強かった。いきなりの状況についていけなくて、名前を呼ぶしかできずに。
「淋しかったでしょう?すみません、最近は少し忙しくて」
「えっ、そ、そんな事ありません、よ」
「嘘はいけません」
強がってみたもののピシャリと言われて、返す言葉もなくなってしまう。そのまま沈黙が続いてしまって、この状況が照れ臭いのと、何か話題をと慌てた私は聞いてみる事にした。
「、どうして、私が淋しいってわかるんですか…?」
すると彼は、クスリと笑ったあと後ろに広がるシーツの波に私を組み敷いた。
「ひゃっ」
驚いて声を上げ、慌てて顔を上げれば思ったより近くにあった綺麗な顔に更に驚く事になってしまった。ち、ちかい、と恥ずかしくなった矢先、唇に触れたのは彼のそれで。
「、ん」
思わずぎゅっと目を閉じるも、その唇はすぐに離れてしまった。再びゆっくりと目を開けてみれば、そこには月明かりに照らされたいやらしい微笑み。そして彼は、
「恋人の私が、名前の気持ちくらい判らなくてどうします?」
初めてのキス。そして彼から初めて聞けた恋人だという言葉に、きゅんと目頭が熱くなってしまった。でも泣くのを堪えて、私は彼の背中に腕をまわししがみつくように抱き着いた。
うれしい。うれしい。
「セバスチャンさん、すき」
「存じております」
「だいすき、いっぱいすき、愛してます」
その言葉に応えるように、再び私の唇に彼のそれが降りてきた。

(まあとりあえず、何と言いますか。御召し物を汚してすみません)
(…あ)



20090618 / さびしい
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