淋しかった。
ゼロスさんがいきなり大人しくなってしまって。いつの間にか、私の心にゼロスさんが居場所を作っていた。それは本当だった。認めよう。だが、しかし。
「名前さーん」
にこやかにステップしながらこちらにやってくる彼の姿に、何で私はあの時あんな事を言ってしまったのだろうと後悔した。全く持ってあれはきっと気のせいだったんだ。私は深く深く、溜息をつく。
「あれ、何かお悩みですか?」
「はい、ちょっと」
「僕でよければご相談にのりますよ?」
「悩みはゼロスさんなんですけどね」
「え、」
ゼロスさんは驚いたように目を見開き、そして照れたように視線を逸らした。
「名前さん…もしかして僕に恋わずら、」
「言うと思いましたよ」
「おや、やっぱり僕の事なら何でも分かってくださってるんですね」
…。ああ、もう抱き着かれるのにも慣れてしまった自分が嫌だ。そしてそれが満更でもない自分がもっと嫌。
「ねえ、名前さん」
いきなり真剣な顔で見つめてくるものだから、思わずドキリとしてしまった。だってゼロスさん、こんな変態でめちゃくちゃで自分勝手だけど。顔はかっこいい。
ああ、前だったらこんな事思わないのに。私、頭おかしくなっちゃったのかな。たじたじと、ゼロスさんを見つめた。
「な、なんですか?」
「あ、やめてください上目遣い。興奮するんですけど名前さんかわい」
ばきっ。
「な・ん・で・す・か・?」
咄嗟に、手が出てしまった。一字一字低く聞き返すと、ゼロスさんは泣きそうになりながら改まった。そして、右手が私に差し出される。
「、?」
その手の意味が私には理解出来ず、首を傾げる。
「手を、繋がせてください」
「え、」
あからさまに嫌な顔をする私に、ゼロスさんが苦笑した。
「何もしません。ただ、手を繋いで歩きたいだけです」
本当に、何もしないだろうか。不安で仕方なかったけど、それだけなら…と私は差し出された手に自分のそれを重ねる。するとゆっくりと手が握られ、途端にゼロスさんがうれしそうに笑った。
「ありがとうございます」
ちょっと可愛い、なんて内心思った私は。やっぱりちょっとおかしくなってるんだと思う。

(〜♪〜♪)
(ちょちょっ、ステップに私を巻き込まないでください恥ずかしい!)



20090712 / にこやかにステップしないでください
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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