ガチャ、バタン
「、ゼロスさん」
「はい、どうしました名前さん」
「部屋までついてこないでください」
彼に付き纏われるようになってもう三週間が経っていた。
宿へ到着しみんなでご飯も食べ終わり、割り当てられた一人部屋に戻った。何故か二人で。というか、ゼロスさんが勝手に部屋の中までついてきた。
「いいじゃないですか減るもんじゃなし」
「減らないですけどっ、女の子の一人部屋ですよ」
「だって、名前さんともっと一緒に居たいんです」
「、もう」
何を言っても無駄だという事は今までの経験で知っているので、それ以上は何も言わない。とりあえず手荷物をベッド脇に置いて、そのままふわふわのシーツの海にダイブした。歩いたり戦闘で疲れた体から途端に力が抜けていく。ギシリと隣が軋んで、ゼロスさんがベッドに座ったのだろうという事がわかる。
「疲れましたか?」
「ゼロスさんが居ると襲撃が増えるっていうリナさんの言葉、あながち嘘じゃないんですね」
「ええ?そうですか?」
「そうです。ゼロスさんのせいです」
「でも、名前さんは守って差し上げたでしょう?」
「…」
確かに、と私はふてくされたように唇を尖らせた。やはりゼロスさんの実力には目を見張るものがあり、それを目の当たりにした時は大層驚いたのを覚えている。リナさんに、ゼロスに力ずくで来られたら、と言われた事を思い出して初めて彼に恐怖を抱いた事も。
ちらりと、ゼロスさんを見てみた。
「、ゼロスさん」
「はい?」
「ゼロスさんは何故、私なんかに構うんですか?」
初めてだったかもしれない。真剣にゼロスさんと向き合うのは。不思議に思ったのか、彼は小さく首を傾げた。
「どうしたんですか?いきなり」
「ゼロスさんは魔族で、すごく強いのに。どうしてたかが人間の、しかもリナさんみたいに力がある訳でもない私に構うのかな、って」
「…」
「魔族の、暇つぶしですか?」
ぽつりと尋ねてみれば、ゼロスさんは柔らかく笑って私の頭をぽんぽんと撫でてきた。
「一目惚れです、ってお伝えしたでしょう?」
「…、」
「名前さんと話してると、なんだか落ち着くんです」
それだけ言うと、ゼロスさんはぐいぐいと私の体を押して、空いたスペースに寝転がってくる。そして彼の腕が、私の体を抱きしめた。
「わわわ、何ですか」
「僕も疲れました、名前さんのぬくもりで癒してください」
いつもなら殴ってしまうところなのだけど、何故かその時はその気にはなれなかった。おとなしく彼の胸に顔を埋めて、私はゆっくりと目を閉じる。抱かれた腕に、不覚にもドキドキとしてしまったことは秘密。

(…あんまりくっつかないでくださいね、変態が移ります)
(あ、ひどいです名前さん)



20090705 / くっつかないでください移ります変態が
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