「一目惚れしました」
と、彼に纏わりつかれるようになったのは一週間ほど前からの事。
「名前さーん、また逢いにきちゃいました」
宿屋で朝を迎え、清々しさすら感じながら一階の食堂に降りてみれば。昨日いつの間にかいなくなったと思っていたゼロスさんがちゃっかりリナさん達と相席しているのが目に入りギャグ漫画よろしく、ガタタと大きな音をたてて階段から滑り落ちた。
「あっ、大丈夫ですか?足元はしっかり見ないと」
ゼロスさんが慌てたように私に駆け寄り、手を差し延べてくれる。しかし私はそれを取る事はせず、打った額を押さえながらゆっくり立ち上がった。
「ゼロスさん…何してるんですか」
「え?だから名前さんに逢いにきちゃいました」
語尾にハートでもつきそうなくらい可愛く言う彼に、私はげっそりとうなだれた。とりあえずリナさん達のテーブルに行き空いた席に座れば、リナさんはニヤニヤとこちらを見ていた。(ちなみにゼロスさんはちゃっかり私の隣の椅子に腰掛けている)
「名前、あんた愛されてんわねー」
「リナさん、何で追い返してくれなかったんですか」
「あいつに帰れって言ってもどうせ無駄じゃない。力ずくで来られたらたまったもんじゃないし」
確かに、と私は納得してしまう。ちらりとゼロスさんを窺えば、彼はにこにこと笑って私を見ていた。
「寝起きの名前さんも、可愛らしいですね」
私は大きな溜息をついた。こんなのほほんとしているように見えて魔族だというのだから、手のつけようがない。魔族が何故私なんかに纏わりつくのだろうかと、不思議でたまらなかった。
「ゼロスさん、お仕事はいいんですか?」
「心配してくださるんですか?大丈夫ですよ、忙しくてもちゃーんと名前さんに逢いに来ますから」
「はぁ、そうですか」
やはり何を言っても無駄のようだ、と私は諦めて朝食をとることにした。が、
「ゼロスさん、何してるんですか」
「え?」
ガシリと。私の腰を撫でている腕を掴んだ。ゆっくりとその腕を遠ざけながら、じとりとゼロスさんを見る。
「あいたたた、」
「ど・こ・を、触ってるんですかっ」
たいして痛くもない癖にその振りをするゼロスさん。私がポイと腕を離すと、彼は顔の横でぴっと人差し指をたてた。
「ほら、僕達、まだ出会ったばかりですから」
「だから?」
「まずはスキンシップを、と思いまして」
まるで悪気なく言ってのけるゼロスさんに、私はまたうなだれた。


20090702 / スキンシップじゃなくてセクハラです
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