「ちょっと離しなさいよ名前!」
「マ、マルチナさんこそ!ゼロスさんが嫌がってるじゃないですか!」
「モテる男は大変ね、ゼロス?」
「あはは…」
私とマルチナさんは、ゼロスさんを奪い合うように両腕にしがみついて言い合っていた。ゼロスさんに一目惚れして、マルチナさんと出会い、最近は逢う度いつもこんな感じ。
私だってゼロスさんが大好きなんだから、譲れない!
あ、でも。マルチナさんと仲が悪い訳ではない。ただゼロスさんが絡むとこうなってしまうだけで、普段は仲がいい方だと思う。
「もー!マルチナさんいい加減離してください!」
「嫌よ!ゼロス様は私とこうして居たいっておっしゃってるわ、ねぇゼロス様?」
「いやー僕としては歩きにくいんで、お二人共に離して欲しいですけどね」
「!、す、すみませんゼロスさん」
途端私はパッとゼロスさんから腕を離した。が、マルチナさんは変わらず彼にひっついている。
「ちょっとマルチナさん、邪魔だって言われたじゃないですか」
「ああら、だから名前はお子ちゃまなのよ。大人はいつも言葉の裏を読まなくちゃ」
「マルチナさん、相変わらずプラス思考ですねえ」
ゼロスさんが困ったように、自由になった手でポリポリと頬を掻く。するとリナさんが私に耳打ちをしてきた。
「ちょっと名前、マルチナに何言っても無駄よ。馬鹿なんだから」
「ううう、だって、」
「あんたもあんな奴に惚れるなんて、変わってんわね」
「…むー」
リナさんの言葉を聞きながら、前を歩く二人の背中を見つめる。マルチナさんはぎゅうとゼロスさんの腕に抱きつき、何やら楽しそうに話していた。彼女のように猛アタックする自信なんて自分にはなくて、マルチナさんが少し羨ましかった。
「あーあ」
ちぇ、と私は唇を尖らせふてりながら歩く。ふと、ちらりとゼロスさんを伺うと彼もこちらを見ていて、ドキリと心臓が跳ねた。
「名前さん、」
「えっ、な、なん、」
「避けてください」
「え?」
言われた意味が理解出来ず、首を傾げたその瞬間、
ドンッ、という大きな音と共に、視界が真っ黒になった。
「!」
何が起こったのか意味が分からないまま顔を上げれば、そこにはゼロスさんの顔が至近距離にあって驚いた。思わず見惚れていると、彼はにこりと微笑んで私を見る。
「お怪我は、ありませんか?」
「え、」
未だ状況を理解できず辺りを見回すと、どうやら私はゼロスさんに抱かれながら宙に浮いているようだった。そして視線を下ろせば先程私が立っていた場所は大きくえぐれているのが確認でき、ゾクリと背中に冷たいものが走った。
避けろとは、そうゆうことだったのか。
「あ、ありがとうございます、ゼロスさん」
「いえいえ。ご無事で何より」
「しゅ、襲撃ですか?魔族ですか?」
キョロキョロと辺りを見回すも、攻撃をしてきた張本人は見当たらない。ゼロスさんが呆れたように溜息をついた。
「そのよう、ですが。不意打ちだけして逃げたようですね。魔族ともあろう者が情けない」
「そう、なんですか、リ、リナさん達はっ」
「あちらに」
ゼロスさんが指差す方に視線をやると、そこには驚いたように尻餅をつくリナさんと。顔面から地面に突っ込んでいるマルチナさん。
「マ、マルチナさん」
「痛そうですね」
にこにこと笑いながら言う彼。その表情をぼんやりと見つめ、ゆっくりと口を開いてみる。
「何で私、を、…」
「はい?」
「マルチナさんの方が近くに居たのに、何故、っ」
ちゅ、と。私の言葉を遮ったリップ音が耳についた。私は、ゼロスさんに口付けられていたのだ。
「ゼっ、」
今起きた物事を理解した途端、私は真っ赤になり慌てて口を開く。と、ゼロスさんの人差し指が私の唇に押し付けられ、それを制した。
「…秘密、ですよ?」
にこりと笑う彼に、私はいよいよ何も言えなくなってしまった。

(それは、そうゆう意味だと勘違いしてしまってもいいのだろうか)


20090718 / 二人だけの
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