「巫女に、なられたんですね」
再会は、最悪なものだった。いきなり私の前に現れた神官服の男。神官といえば神に仕える者かと聞こえはいいかもしれないが、これはそういった類のものではない。魔族。そして獣王ゼラス・メタリオムの獣神官なのだ。神族とは、相容れない存在。それがこれの正体。そして私の、
「、ゼロス、さん」
想い人でもあった。
「いやー、久しぶりにお逢いできたかと思えば随分成長なされて」
「、…」
出会ったのは私が15の頃だった。どうやって出会ったのかはもう忘れた。何度か接するようになって彼に惹かれていった。魔族だと知った時も、それでもいいと私は彼に想いを寄せた。そして17の頃、彼は突然姿を消した。もともとフラフラしているような人だとは分かっていたが、私はしばらく立ち直れなかった。もう逢えないのだ、と。
21になった頃私は街の男性と結婚した。そして今日、私は22になった。彼は何食わぬ顔で、私の前に姿を現した。
「どうして、」
「今更貴女の前に現れたか、ですか?」
「……」
「それとも、愛していたのに何故いなくなった、ですか?」
「っ、」
彼は私が動揺するのを見て心から楽しんでいるようだ。クツクツと喉で笑っている。昔逢った頃とは、なにかが違う。
「そうですね、強いて言うなら貴女の誕生日のお祝いに。そして、」
彼はひとしきり笑うと、小さく息を吐いて顔を上げた。いつも閉じられている目は開いていた。
「貴女の幸せを、壊しに」
彼が言うと同時に、精神世界とこちらの世界の割れ目から現れたのは。
「…、!」
見るも無惨な、私の夫。その人間であったであろう肉の塊は、グチャリと地面に落ちた。私は目を見開き、グロテスクな光景に吐き気が込み上げて両手で口を覆った。そんな私を見て、彼がまたひとつ笑う。
「はは、…いえね、最初はここまでするつもりじゃなかったんです。本当ですよ?すいません」
まるで待ち合わせに遅れた言い訳でもするかのように。彼は言った。
「遅くなりましたけど、ご結婚おめでとうございますって挨拶しに行ったら、彼、なんて言ったと思います?」
ゼロスさんがゆっくりと、私に歩み寄る。
「幸せです、って凄い笑顔で。はは」
笑っちゃいますよね、と。ゼロスさんは私の顎を掴んだ。
「なんか、苛々しちゃいました」
うっすらと見えた紫暗の瞳に、私はゾクリと震えた。
「どうし、てっ、」
「ああ、やっぱり可愛いですね、名前さんは」
ゼロスさんはそっと、私の頬を指先で撫でる。私は夫を殺された哀しみより、愛しているゼロスさんに何故こんな事をされるのかと哀しくて。ただ涙が流れた。
「やっぱり貴女の感情が一番美味しいです」
満足そうに言って彼は私から手を離す。私はそれと同時に、その場へと膝から崩れ落ちた。
「それでは、用は終わったので僕はこれで」
背中を向けて歩き出した彼は、「ああ、忘れてました」と再びこちらに顔を向けた。
「お誕生日、おめでとうございます名前さん」
彼はいつもの笑顔を浮かべ、手を小さく振って闇へと姿を消した。
残された私はもう肩を震わせ、泣いているしかできなくて。どうしてどうしてと、ただそれだけが頭の中を駆け巡っていた。
「ゼロス、さっ、」

(お願い、せめて)
(私を一瞬でも愛したのだと、言って)


2009618 / 一瞬、でも
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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