「明かりよ(ライティング)!」
「はい、残念」
とある日の午後、私は熱心に魔法の勉強をしていた。こんな簡単な魔法すら使えない事には理由があるのだ。
「本当に名前さんは、魔法の無い世界から来たんですね」
優雅に木の上でミルクを啜りながら、ゼロスさんは言った。そう、彼のいうように私は別世界からここへ来た人間なのだ。私の故郷は日本。こちらは全くそことは違うファンタジーのような世界で、何故か私はトリップしてきてしまったのだった。最初は意味が解らなくて、毎日毎日泣いていたが、リナさん達と一緒に旅をするようになり、このゼロスさんにも出会い、かなりの月日が経って私も大分こちらの世界に慣れてきた。
と、そこで気になるのがリナさん達のお荷物だという現状。私を拾って故郷に帰れるまで面倒を見てくれると買って出てくれたのはリナさんだが、やはりそこまでしてもらうだけの恩返しがしたい。
剣の方は見様見真似で扱えるようにはなったものの、リナさんを狙っている相手のいうのは魔族であり。ただの剣なんかでは全く相手にならない。
そこで次に考えたのが魔法を扱う練習。アメリアさんとまではいかなくても、せめて回復呪文くらいはと初めてみたのだが。
「ああもう!なんでなんにも起こらないのっ」
何度目かも判らないライティングの呪文に進歩はなく、泣きたくなりながら叫んで私はその場へうなだれた。
「まぁ、元々魔法が無い世界に居たんですから仕方の無い事では?」
軽いノリで言ってくるゼロスさんを私は恨みがましく見上げた。
「だから、ちょちょいとコツを教えてくださいって言ってるじゃないですか」
「リナさん達の方が適役でしょう?」
「だから!これ以上迷惑かけたくないんだって言ってるじゃないですか!呑気に人に魔法なんか…、教えてる場合じゃないです、もん、リナさんは…」
強く言ってみるも、私はだんだんと涙声になって俯いてしまう。するとゼロスさんは、ふぅ、と溜息を吐いて私の隣へ降りてきた。そして後ろから抱きしめるように私の両腕をとり、胸の前で掲げた。
「っ、ゼロスさ、」
「集中、してください」
この恥ずかしい状況で、集中しろというのも。とりあえず私は目を閉じて指先へと集中させる。
「呪文を、その意味を、ゆっくり理解するように唱えて」
ゼロスさんの声が耳元で聞こえた。言い聞かせるような柔らかい声は私の中へと優しく入り、こくりと小さく頷くと言われた通りに呪文を唱えた。そして、
「明かりよ(ライティング)」
すんなりと受け止めるようにその言葉を発すれば、私の手の間から小さな光が生まれる。
「、わあっ」
初級だが、初めて発動された呪文に私は歓喜の声を上げてゼロスさんを振り返った。すると思いの外顔が近いことに驚き、発動された明かりはすんなり消えてしまった。
「あ、」
と、またそちらへ視線を戻そうとすれば、私の手を取っていたゼロスさんの右手は顎へと移動していて。
「ゼ、」
名前を呼ぶ間もなく。流れるように顎を引き寄せられれば、唇に当たったのはゼロスさんのそれで。
「、っ」
状況になかなかついていく事ができずにいると、合わせられた唇に舌が進入してきた。私の舌を絡めとるように、歯列をなぞるように、口内を愛撫されているかのようにそれは動く。
「ふ、あ」
くすぐったさと気持ちよさから吐息と共に出てしまった声にゼロスさんは満足したのか、最後に唇を吸って離しにこりと笑った。まだ余韻から戻れない私の、今度は瞼に口付けると体すらも離れてしまう。
「お礼として、もらっておきます」
名前さんの唇、と最後に付けたして、彼はその場から姿を消してしまった。
残された私は、いきなりの事態に頭が混乱し草原へと再びうなだれる。きっと今の私は顔が真っ赤だろう。
「なん、なんなの…」
唇に手の甲をあててその感触を思い出すように思いを巡らせるが、無駄に頭は混乱していくばかりで。ただ確かなのは、
「、どうしよう」
この胸に生まれた恋心。


20090602
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