さん、に、いちでスタートだぞ、私。
心のなかで言い聞かせてさよならの合図でスタートダッシュを切る。廊下は走るとぬぎぬぎに怒られるから早足でとにかくまっすぐゴールを目指す。
校舎から出ることに成功。しかしここで私は奇妙であることに気がついた。いつもなら絶対に追いかけてくるその姿が見当たらない。思わず立ち止まってくるりと振り返るが、ホームルームが終わってすぐ出てきたゆえに゛そいつ゛だけでなく誰一人としていない。
おかしい、これはおかしい。
嫌な予感に脈打つ鼓動をぎゅっと手で押さえる。
そんな私の後ろに気配を感じた。
「確保〜」
「うっわ、凜月!?」
「さっさと行くよ〜俺眠いし」
「えっちょっと!!!」
がばりと抱きついてきたそいつは私が想像していたやつとは違くて何事かと思っているうちにひょいと担がれてしまう。
「ちょっともっと丁寧に扱ってよ」
「え〜っめんどう。ていうかいいの?逃げなくて?」
「ーー…そういうことか」
「そういうこと〜。セッちゃんがアンタ捕まえてれば寝ててもいいって言うから」
俺のためにおとなしく捕まっててね〜と珍しく軽やかな凜月の足によって運ばれたのはKnightsが占領しているスタジオ。あんずちゃんが作った凜月の寝床にごろりと転がされる。こいつ私の扱い悪すぎだろうと怒り心頭に再度捕まる前に逃げようと膝と手をついたところで
「だあめ、」
と不適に笑ったお腹に腕を回され凜月に抱きつかれてしまう。くそやろうめが。吸血鬼だかなんだか知らないけど灰になってしまえばいいんだ。
私の怒りをよそに後ろからは規則正しい寝息が聞こえ始める。必死に巻き付いた腕をはずそうともがくが一向に外れる気配がない。
くそ、早くしないと゛あいつ゛が来る。
そんな私の奮闘も悲しく、スタジオの扉ががちゃりと開く。
そこには清々しいほど爽やかな顔をした゛あいつ゛がにやにやしながら立っていた。
「俺から逃げようなんて一生ありえないからあ」
2016120