「はっすみ」
「なん…っ!?」
ポンっと手のひらから鳩を出してやると目を見開いてみせる蓮巳。ずるりと落ち駆けた眼鏡がいつもお堅い彼を少しだけ間抜けに見せた。
「貴様…!」
「どう?驚いた?日々樹直伝だよ」
「これ以上あいつが増えてたまるか。度し難い…」
蓮巳は口癖を呟きながらずり落ちた眼鏡を掛け直す。
手のひらの鳩がきゅるりとした瞳で私を見る。頭をポンポンと撫でてありがとうというとどういたしましてと言わんばかりに一鳴きしてご主人の元へと戻って言った。
「用はそれだけか?」
「あっうん、いや、」
「なんだ、はっきりしろ」
蓮巳は女心がわからないやつだなあと思いながら彼を見上げる。言おうか少し迷って、
「なんでもないや」
私の口からそうついて出た。違うそうじゃないのに。普通の会話なら難なくできるのに、なぜか大事な言葉を声にできない。
「生徒会の仕事があるから行くぞ」
「うん、引き止めてごめんね」
「まったくだ、度し難い」
また口癖をこぼしながら蓮巳は私の横を通り過ぎていく。私は遠くなっていく蓮巳の姿をじっと見つめていた。
まだ、間に合う。
「っ蓮巳!」
ちょっと離れていたが名前を呼ぶ声に、蓮巳はため息をつきながら足を止めた。
「一体なんだ、要件は一度に済ま、」
「誕生日おめでと!」
思い切りが肝心だと思って勢いよく声を出したら思ったより大きな声が出た。その声に驚いたのか………はたまた真っ赤な私の顔に驚いたのかわからないが、蓮巳は最初に驚いた時よりもさらに驚いた表情で私を見ていた。
「っじゃあ」
言い逃げをするかのように今度は私が蓮巳に背を向けて走り出した。
後ろから廊下を走るな!と言う声が聞こえてほんとに女心のわからないやつだなあと思ったけれど、そんな彼が好きだなあと思った。
20170922