「あ、大神先輩こんにちは!」

その声の方に視線を向かわせると波瑠が遠くでぶんぶんと手を振っていた。相変わらず騒がしいやつだなあと思いながらも、呼び止められたのだから足を止めてやる。
駆け足で寄って来る波瑠は小動物のようだ。

「なんか葵先輩たちから大神先輩が呼んでるって言われたんですけど、」
「は?俺は呼んでねえぞ」
「え?あれ?確かに言われたんだけどなあ…中庭にいるからって、」

どういうことでしょうと首をかしげる波瑠。
あいつら何か企んでやがるな?と思ったその瞬間。
波瑠の後ろからにゅっと飛び出た影が一つ、二つ。

「やっほ〜大神先輩、波瑠ちゃん!」
「今からゲームしません?」

にししと揃いの顔をして出てきたのはひなた、ゆうただった。一体どういうことだと俺が文句を言おうとするよりも早く、ガシャンという嫌な音。
その音の方、自分の手の方に視線を向けると、俺と波瑠を繋ぐようにして、手錠がキラリと光っていた。

「はあ!?お前らなんだよこれ!?」
「えっ何!?何なんですか!?」
「ゲームの内容は〜!」
「鬼ごっこ〜!」
「鍵は俺が持ってます!」
「頑張って二人で取り返しに来てくださいね〜!」
「「それじゃあゲームスタート!!」」

俺たちを無視して双子は話を進めていく。そして楽しそうに笑いながら繋がれた俺たちを置いて走り出した。

「おい、待ちやがれ!!!」

どっちでもいいからとりあえず捕まえようと手を伸ばす。しかし繋がれた手錠がガチャンと音を立てて
それを阻んだ。

「ぎゃっ、あっぶない!!」

繋がれた先の波瑠は俺に引っ張られて転びそうになるのをなんとか耐えたようだった。

「チッ、大丈夫、」

か、と言葉が続くはずだった。
しかし、振り返った先の波瑠が思ったよりも近い距離にいたことによって続きの言葉は紡がれずに終わった。

「もう!葵先輩たちはなにを考えてるんですか!!」

幸い波瑠はそんなことに一ミリも気づいていなかった。
俺はさりげなく距離を取りつつ、繋がれた方の腕を動かして手錠の様子を確かめる。思ったよりしっかりした作りのそれは壊すのは不可能で、鍵を双子から奪取する以外に道はないようだ。

「鍵持ってんのはたぶんひなたの方だ。どのみちどっちでもいいから捕まえるぞ」
「そうですね!私もこのままなんて困りますし!そうと決まったら行きましょう!」
「待て!そのまま走ると!」

俺まで転ぶだろうが、という言葉が出る前に、波瑠は勢いよく踏み出す。すると繋がっている俺も踏み出さなければならないわけで。ポンコツ波瑠は一瞬で繋がれているということを忘れたのか、思いっきり踏み出しやがった。当然俺はバランスを崩してしまう訳で。

やばいと思った時にはもう遅く、俺は波瑠を押し倒すようにして倒れてしまった。

「何してんだ!」
「ごめんなさい〜!」

波瑠はひいと悲鳴をあげながら俺の下で青ざめた顔をする。
不可抗力とはいえ押し倒してしまった俺は、内心ドキドキしていた。そりゃあ、だって、波瑠が好きなのだから当たり前だ。

それなのに波瑠と言ったら。全く俺を意識しているそぶりも見せず、怒られることを危惧してビクビクしているだけだった。全く脈がなくて悔しくなる。
思わず舌打ちをしながら体を起こすと、彼女は再びごめんなさいと謝った。

「大神せんぱあい、そんなに怒らないでくださいよお」
「怒ってねえ、呆れてるだけだ」
「それはそれで複雑なんですけど」

情けない顔をする波瑠は何もわかっちゃいない。

いつまでも座っているわけにもいかないので波瑠の手を引きつつ立ち上がる。

「次こそは転ばないようにしましょう!」
「お前のせいだっつーの。まあいい、行くぞ」

一悶着あったが、ようやく双子を探しを始めることができた。
校内を二人で歩く。手錠のお陰で周りからの目線がまとわりついてうざい。双子のどっちでもいい、会ったらただじゃおかねえと思いながら波瑠を連れて歩いた。




「大神先輩!あそこ!」

幾分か探し歩いて波瑠が声をあげた。波瑠の指差す先にはこちらを見ながら笑顔で手をする双子のどちらか。
どっちでもいい、とりあえず捕まえてもう一人の居場所を吐かせればいいだけだ。

行くぞ、そう波瑠に声をかけようとした時だった。

ぐんと波瑠の方に腕が引かれる。あの馬鹿はまた俺と繋がれていることを忘れたのだ。早くいかなければという安直な思考のまま、大きく一歩踏み出しているのが最後に見えた。

デジャヴというのはこういうことを言うのだろうか。俺たちはまた地面に倒れていた。今回は押し倒すことなく、お互いバラバラに地面に倒れることになった。

「馬鹿野郎!!」
「ぎゃーー、大神先輩ごめんなさい!!!!」

素早く起き上がって土下座を決める波瑠。ちょうど地面が芝生であったこともあって、怪我はなさそうだった。

「疲れた、休憩するぞ」

やっと見つけたと思ったひなただかゆうただかしらないが、あいつの姿も見えなくなっていた。
俺はそのまま芝生に横たわる。

「大神先輩、本当にごめんなさい」
「次はね〜ぞ」
「めちゃくちゃ呆れてますね」
「そりゃそうだろ」
「ですよね〜」

波瑠はようやく土下座から起き上がって体育座りをした。反省しているようで少しシュンとしている。

俺はどうして、こんなやつが好きなんだろうか。

「お前よく仕事で失敗しないな」
「そりゃあ仕事ですから!」
「なんでプロデューサーになろうと思ったんだ?ファンでよかっただろ」

そういえば聞いたことがなかった。
どうして波瑠がプロデューサーになったのか。

「私はアイドルが好きです。でも私だけじゃなくてもっともっといろんな人に好きになってもらいたいんです。舞台上のアイドルを輝かせて、もっともーっといろんな人に魅力を伝えたい!」

それから波瑠はさらに続けた。

「ファンじゃないときの私はプロデューサーです。みんなを輝かせるプロデューサー!そんなプロデューサーがミスなんてしてたらアイドルは輝けませんから!…なんて生意気ですかね」

えへへと波瑠は苦笑いする。
はじめて聞いた波瑠がプロデューサーになった理由。力強く放たれたその言葉から、心の底ら俺たちのことを思っているのが伝わってきた。

「ああ、生意気だ」
「そんな正直に言わなくても…!」
「一人で突っ走ってもうまくいかねんだよ。プロデューサーだってもう仲間の一人だ。後ろから背を押すんじゃなくて隣に立って一緒に作るんだっつーの」

俺の言葉に波瑠は一瞬目を丸くしたあと、

「あはは、そうですね。まだまだ未熟者でした…私、頑張りますから、これからもよろしくお願いしますね。なんて改まって恥ずかしいな」

恥ずかしそうに笑った。

そうだった、そんな真っ直ぐなところが目が離せなくて、好きになったんだ。


20180913

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