ギターのチューニングをしていた俺は軽音楽部の部室の扉が開いたことでちらりとそっちに目を向けた。元気よく入ってきたのは二人組。この部室に入ってくる二人組というと葵ひなた、ゆうた兄弟だ。
二人は息を揃えて俺の元まで駆け寄ってくる。

「やっほ〜大神せ〜んぱいっ」
「いいことを聞いたんですけど波瑠ちゃんに振られたって本当ですか?」

思わず手元が狂ってギターのペグを回しすぎてしまう。この弦は最初からチューニングし直しだ。
いいやそんなことより、だ。

「てめえら…」
「その反応」
「図星ですね」
「あ〜っくそ、誰から聞きやがったんだ!?きゅ…朔間先輩か!?」

俺の言葉に双子はせいか〜いっと息を揃えて言った。あの野郎余計なことしやがって。

「いやあでも大神先輩はてっきりあんずさんのこと好きなのかと思ってましたよ〜」
「なんでだよ」
「あんずさんといるときの大神先輩は笑ってる確率が高いですからね。逆に波瑠ちゃんのときはいじめてるイメージしかないんですけど」
「でも大神先輩って好きな子ほどいじめちゃうタイプっぽいかも〜」
「確かに」
「どんなところが好きなんですか?」
「ちょっと兄貴…と言いつつ俺も気になります、どうなんですか?」

ずいずいっと双子に詰め寄られる。今すぐひねり潰したい衝動に駆られるが、手元のギターが邪魔でかなわない。大事なギターを雑に扱うわけにはいかない。あと危ないしな。それを分かって双子もここぞとばかりに詰め寄ってきているのだろう。

「うるせ〜よ!散れ散れ!」
「いいや、この際白状しちゃいましょうよ!」
「じゃないと俺たちの質問責めはいつまでも続きますからね」

口撃だけでこの双子を撃退するのは難しいところだ。
それならばと無視をしてギターのチューニングをしようと思うがそれはそれで双子のしつこく喋りかけて来ることで集中できない。

そんなとき、部室の扉がノックされて、それから控えめに扉が開く。

「あ、大神先輩やっぱりこちらにいたんですね」

それは幸か不幸か、話の渦中の波瑠の訪問だった。資料を抱えた波瑠は俺に用事があるらしく、部室へと入ってくる。それに対してさっきとは打って変わって静かになった双子は、ニヤリとした笑みを浮かべてそそくさと俺から離れて行った。

「次のライブの資料です。今渡しても大丈夫ですか?」
「構わねえよ」

今のUNDEDのリーダーは俺だ。ライブの資料は必然的に俺の元に来ることになる。そして波瑠はUNDEDのプロデュース担当なので、資料を届けにくるのは彼女となるのだ。

波瑠から受け取った資料を確認する。部屋には双子もいるはずだが、ペラリと紙をめくる音だけが響いた。
では目の前の波瑠は何をしているのだろうと、ふと顔を上げてみると、彼女は興味深げに俺のギターを見ていた。

「ギター興味あんのか?」
「うーん、自分で弾くより誰かか弾くのを見ていたいですね。弾ける気がしませんし」

弾ける俺がすごいと目をキラキラさせる波瑠。それはプロデューサーの目、というよりはただのファンの目だった。相変わらず二つの切り替えが早い。

「せっかくだから聞いて行ったら?」
「今なら特等席にごあんな〜い!」

俺らを見守っていたはずの双子が急に波瑠の後ろから出てきた。ひなたが部室の片隅に避けてあったパイプ椅子を広げてみせる。
それに波瑠は困ったような表情をした。

「うう、めちゃくちゃ魅力的なお誘いですがこのあと他のユニットのプロデュースが入ってて」

心底残念そうにする波瑠。
この時はプロデューサーの顔をしていた。
しかし次の瞬間には、

「今度暇なとき!!!聞かせてください!!!」

波瑠はずいっと体を前のめりにしてお願いしてくる。聞きたいという思いがまっすぐ伝わってきて、俺が断る理由なんてなかった。

「勝手にしろ」
「絶対ですよ!!!」

波瑠はピシリと俺を指差して意気揚々とそういうと、プロデュース頑張ってきます!とバタバタと部室を飛び出していった。
心底嬉しそうに笑う波瑠の笑顔。いなくなったあいつの笑顔を思い出して思わず俺の口元も緩んだ。

「ねえ兄貴、俺いいこと思いついちゃった」
「なになにゆうたくん!」

このとき、俺は部室の隅で怪しげな計画が始まっていたことに気づかなかった。





20180715

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