俺の後ろでぴゃ〜と奇妙な悲鳴を挙げている波瑠に腹が立った。
そもそもだ、今日はOGである朔間先輩と羽風先輩が来ているだけで俺の機嫌は絶不調だった。
その二人を見て波瑠が興奮している。それがさらに俺の不機嫌に拍車をかけた。

確かに波瑠はアイドルが好きでこの学院のプロデュース科に入学して来た。初対面で俺に、

「UNDEADめちゃくちゃファンでした!!!会えて嬉しいです!!!!」

と、ミーハーな発言を堂々とかましたやつである。だから最初は俺だけじゃなくて他のユニットからも避けられがちだったのだが、いざ仕事をしてみるとファンという立場からプロデューサーという立場に切り替えてアイドルのサポートに徹した。最初に最悪だった印象もあいつの頑張りが認められて、今では入学して来たプロデューサーの中でもひときわ飛び抜けてアイドルたちからの信頼が厚いと思う。俺も含めて。

そんなアイドルが大好きな波瑠の目の前にあの、元UNDEADで今は芸能界で活躍する朔間零と羽風薫がいる。あいつが喜ばないわけがない。

「こ〜んなかわいい子がいるなら朔間さんみたいに留年したらよかったかな〜なーんて、ね」
「あの羽風さんが私に話しかけてるう…!」

ぐっとあいつの手が俺のジャージを掴む。くそムカついたから引き剥がしてそのまま羽風先輩の方に投げておいた。

「うわっ、と」
「女の子には優しくしないとだめだよわんちゃん」

簡単に抱き止めた羽風先輩は俺のことを嗜める。どうせ今俺が優しくしてやったってあいつの目には一ミリもはいらないというのに。

羽風先輩は大丈夫?と波瑠に声をかける。波瑠は至近距離の羽風先輩に顔を真っ赤にしながら必死に頷いていた。

「我輩、そんなに乱暴なことをする子に育てた覚えはないのだがのう」
「お前に育てられた覚えはねえぞ朔間先輩…!!!」

俺は頭に血が昇るのを感じながら声の方に顔を向ける。そこではムカつく顔がクツクツと楽しそうに笑っていた。

「つーか、アドニスと話してたんじゃね〜のかよ」
「うむ、そうなんじゃが、わんことも話してやらないと可哀想かと思うてのう。それにしてもわんこや。薫くんではないが女の子には優しくするものじゃぞ」

それが好きな女の子であるならなおさらな。

耳元で続いた言葉に頭に昇っていた血が急降下するのを感じた。動揺を言葉や顔には出さないように舌打ちだけして朔間先輩から顔をそらす。この行動こそ肯定しているようなものだが、どのみち全部筒抜けな気がするので諦めた方がいいかもしれない。昔からこいつにはどうしても叶わない。

「ふふ、図星かのう」
「うるせ〜よ、ほっとけ」

にやにやとする顔がうざくてもう一度舌打ちをした。それからうるさく絡まれる前に練習を始めてしまおうと吸血鬼野郎の前から離れた。
そもそもここはレッスン室で波瑠はプロデュースをしに来ているのだ。時間は有限、話に花を咲かせている場合ではない。
俺は楽しそうに話す羽風先輩と波瑠を止めようと思った。そのときちょうど耳に入ってきた会話だ。

「アイドルが好きでここに来たんだ…じゃあもしかしてこの学院に好きな人がいたりする?」
「うーんと、もし羽風さんが恋愛感情で好きな人がいるか聞いているならいませんよ?あくまでもファンですから」

あっけらかんと答えた波瑠の言葉に、わかってはいたが少しショックを受けた。俺が波瑠を好きだったとしても、波瑠が俺を好きであるという逆説は成り立たないのだ。

「いつまで鼻のしたのばしてやがんだ!波瑠もにやにやしすぎだ!」

羽風先輩に蹴りを入れる。それから波瑠の頬をつねってやった。

「いたたた、いたいれす〜!」
「誰のせいで練習が始めらんね〜と思ってんだよ」
「おおがみしぇんぱいらってしゃべってたじゃらいですか〜」
「最初に俺様にしがみついて動けなくなったのは誰だ?」
「わたしれす…」

頬をつねられてるせいでもごもごと喋りながらごめんなさいと情けなく謝る波瑠。これで反省しただろうと手を離してやる。
最初に言った通り、波瑠は気持ちの切り替えがうまい。

「よし、じゃあ練習しましょう!先輩方はどうしますか?」

さっきまで興奮しっぱなしだったのが嘘のように落ち着いた声で先輩たちに対応する。手元に握りしめていたクリアファイルの中身を出して今日の段取りを確認しはじめてプロデューサーモードに切り替わったようだ。
始めてみたときはほんとに驚いたものだ。さっきまでUNDEDの大神晃牙と乙狩アドニスだ…!と騒いでいたのに、ほんの瞬きの間に別人かと思うほどに落ち着いてプロデュースを始める。根は真面目なんだろう。
練習は波瑠が先輩たちに目移りする心配もなく、滞りなく行われた。
明らかにはじめは品定めをしていた吸血鬼野郎も練習が始まってからしばらくたつと満足げに笑顔を浮かべていた。

「ほお、できた嬢ちゃんじゃのう」
「えへへ〜っあ、わかりましたからそんなに睨まないでください大神先輩〜」
「邪魔すんじゃねえ吸血鬼野郎…!」

あ〜ほんとむかつく。



20180530

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