「えっ嵐ちゃんウエディングドレス着ないの!?」

某ウエディング雑誌を前に私は声をあげてしまった。
そんな私に目の前の嵐ちゃんは驚いたように目を丸くする。

「当たり前でしょう、アタシは男の子よ?タキシードに決まってるじゃない」

嵐ちゃんは迷いなくそう言って雑誌に視線を戻した。
私は嵐ちゃんと一緒にウエディングドレスで結婚式をすると信じて疑わなかった。もちろん嵐ちゃんはタキシードだって似合うと思う。それは間違いない。それでも嵐ちゃんと言えば、私よりも何倍も可愛くて女の子らしい男の子で、絶対にウェディングドレスを着てくれると思っていた。

「え、でも着たいでしょう?」
「アタシはいいのよ。お仕事でも着たことがあるし」
「そうだけどさあ」
「それに二人ともウエディングドレスなんて格好つかないじゃない」
「別に今時女の子同士で結婚式やったりするし問題なくない?」
「それはそれよ」

嵐ちゃんは私の言葉に一ミリも耳を傾けるつもりはないようだ。
それでも私は嵐ちゃんと一緒にウエディングドレスを着たかった。かっこいい嵐ちゃんが嫌いなわけじゃない。もちろん大好きだ。でも嵐ちゃんには嵐ちゃんらしくいて欲しいし、私はそんな嵐ちゃんが大好きなのだ。

それに、私が嵐ちゃんとウエディングドレスで写真を撮るつもり満々なのだ。

「やだやだ!嵐ちゃんと一緒にウエディングドレス着る〜!!!!」
「わがままねェ」

嫌々と駄々をこねる私に、困ったように微笑む嵐ちゃん。結局嵐ちゃんが折れることはなく、散々なだめられて私が諦めるしかなかった。






と、思ったら大間違いなのだ。

「ちょ、ちょっと!なんなのよもう!」

扉が開いて無理やり背を押されながら入ってきた嵐ちゃんは、ぷりぷりと怒りを現わにする。怒ってる嵐ちゃんも可愛いなあなんて思いながら、嵐ちゃんと彼の名前を呼んだ。嵐ちゃんは声に誘われるままこちらを見て、それから驚いたようにぴしりと固まった。

「瀬名先輩ありがとうございました」
「ほんとに、先輩をこき使うなんて何様のつもり?まあ今回は結婚祝いとして許してあげるけどぉ」
「はい、本当にありがとうございます」

嵐ちゃんを連れてきてもらっていた瀬名先輩は私がお礼を言うと、邪魔者は退散とばかりに早々に出て行った。

「えっと、どういうことなの?」
「嵐ちゃんがウエディングドレス着てくれないから強硬手段ですぅ。ウエディングドレスのモデルをやる代わりに写真を撮ってくれるって。瀬名先輩が全部セッティングしてくれました」
「ええ?ちょっといつのまにそんなことしてたのよ」
「だって絶対嵐ちゃんと撮りたかったんだもん。似合ってるよ嵐ちゃん」

嵐ちゃんが着ているウエディングドレスは真っ白のプリンセスラインのドレス。やっぱり女の子はお姫様に憧れるよね。真っ白の中に嵐ちゃんに似合うピンク色のお花がたくさんついていて絶対にこれって思った。

「やだもう、やめてちょーだい。私なんかより貴女の方が似合っているに決まっているでしょう」
「そんなことないよ!ほら、せっかくだからたくさん写真撮ってもらおう!モデルなんてやったことないから嵐ちゃんが教えて!」

手で真っ赤に染まった顔を隠している嵐ちゃんの腕をとってスタジオの真ん中に連れてくる。嵐ちゃんの両手をとってえへへと笑って見せたら、嵐ちゃんも同じように笑ってくれた。

「こんなアタシを選んでくれてありがとう」

嵐ちゃんはへにゃりと眉を下げながら言った。
どうしてか嵐ちゃんは自分がオネエであることを申し訳なさそうにする。それも私にだけだ。オネエであることが何が悪いのだろう。私はそんな嵐ちゃんが好きなのに。私は嵐ちゃんだから好きなんだよ。
だから、

「こちらこそ私を選んでくれてありがとう!大好きだよ嵐ちゃん!」

そう言って嵐ちゃんのほっぺたにちゅっとキスをする。ぱちくりと目を瞬かせた嵐ちゃんはとっても幸せそうに微笑んだ。そうしてから、私の真似するように、私の頬にキスをした。



20200205
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