ぐるりとマフラーを巻いて手袋をして。冬はしっかり防寒対策をしないと寒くて仕方がない。これから外へ出るための戦闘服でもある。よし、おっけーと心の中で呟きながら、クラスメイトにさよならの挨拶をして教室を出た。早く行かなければ宗先輩が待っている。遅いと怒られるのは避けたいからできれば先についておきたいと思う。

しかし、残念ながら今日は私が遅かったようで、待ち合わせの昇降口では宗先輩が壁にもたれて待っていた。

「わっ、遅くなってすみません!」
「ほんとなのだよ。こんな寒いところで待たせて風邪でも引いたらどうしてくれる」

確かにアイドルに風邪なんかひかせたら大変だ。

「そんなこと言うならどうしてマフラーしてないんですか」

そう、大変なのだ。
しかし、今日の宗先輩はいつもしているマフラーが見当たらなかった。

「馬鹿な影片が忘れたのたから仕方がないだろう。影片に風邪を引かれる方が困るからな」
「あ〜、なるほど…。でも宗先輩が風邪をひいても困るのは確かですからね!」

私はしっかり巻いた自分のマフラーを外す。それから宗先輩の首元にかけた。さすがに身長差的に巻くことは叶わなかったけど、意図を汲んだ宗先輩は顔をしかめた。

「私のを貸してあげます」
「ノンッ、君はどうするのだよ」
「私は大丈夫です、ちょっと待っててくださいね!」

ふふんと得意げに笑って宗先輩にマフラーを渡したまま、私はその場から離れた。何の案もなく宗先輩にマフラーを貸したわけではない。
向かうは、先程視界に映ったある人の場所。

「羽風先輩こんにちは」
「あっれ〜名前ちゃんどうしたの〜?」

満面の笑みで迎えてくれたのは羽風先輩だった。羽風先輩は私から話しかけたことに喜んでいるようだったが、私は目的のブツをロックオンしていて見向きもしなかった。心の中で謝っておく、すみません羽風先輩。

「実はマフラー忘れてしまって…」
「えっ寒いのに!俺の貸してあげようか?」
「本当ですか?」
「いーよ、名前ちゃんが風邪ひいたら大変だし!」

まあ、羽風先輩もアイドルであるから風邪をひいたら大変なのだろうけど。宗先輩よりは体が強いだろうし、宗先輩にマフラーをつけさせるにはこれが最適だと…思う…。
マフラーを外した羽風先輩は私に巻いてくれる。私はもう一度心の中で羽風先輩に謝りながら、首元に戻ってきた温もりにほっと一息はく。

「ありがとうございました、羽風先輩!」

ぺこりと頭を下げ、いざ、宗先輩の元へ戻ろうと回れ右をした。
しかし私はぴたりとその場で足を止めた。
なぜならそこには何故か不機嫌そうな顔をした宗先輩が立っていたからだ。

「え、あ、宗先輩?」

宗先輩は無言で私に近づいてくると、手早く私の首元からマフラーをとると、羽風先輩の首に巻き直した。しかもかなーりきつめに巻いた上でグイグイ引っ張っている。

「ノンッ!!!」
「斎宮くん、苦しい!苦しいから!」
「先輩!首しまってます!」

慌てて宗先輩の腕を引くと、彼は満足していなかったようだが、ふんとそっぽを向きながら私の腕をとって歩き出した。

「先輩!?えっちょ、あ!羽風先輩すみませんでした!」

振り返りながら羽風先輩を確認すると、大丈夫だよ〜とばかりにひらりと手を振っていた。巻き込むだけ巻き込んでしまった…明日もう一度謝ろう…。

しばらく歩いて宗先輩はようやく立ち止まった。くるりと振り向いた顔には依然として不機嫌ですと書いてある。
宗先輩は私が貸した自らが身につけていたマフラーを外すと、私の首に巻いた。

「宗先輩?」
「全く君は予想外の行動をしてくれる。僕が許すとでも思ったのかね?」
「ええ…でも宗先輩が風邪ひいてしまう方が嫌ですもん」

そういうと、マフラーを巻くついでに私の身なりも整え始めていた宗先輩が止まる。
それから私の頬に触れて私をまっすぐ見た。

「僕が風邪をひくことより、君が僕以外の異性のものを身につけることの方が不快だ。許さないよ。意味はわかるね?」

そうのたまって、私に問いかけた。

私はこくんと頷いてきっと寒さで赤い頬をマフラーに埋めた。
それから少しでも寒くないように、いつもより近い距離で宗先輩の隣を歩いて帰った。



20190219
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