ぐずぐずと鼻を鳴らす隣にハンカチを渡すと無言で受け取って顔を埋める。お礼くらい言えやと思ったけれどせっかくの晴れ舞台で野暮だと思い、足で蹴るでとどめた。足癖が悪いだとかいつも怒る奴は大好きな弟分の晴れ姿を目に焼き付けまいと、必死に私のハンカチで涙をぬぐっていた。

「もう、しっかりしなさいよお兄ちゃん」
「ううっ、だってゆうくんがこんなに立派になって、ついに俺の手から離れていくと思うと」

いやいや彼はあんたのものじゃないだろう。まあでも確かに、小さな頃からずっと目をかけてきた弟分が結婚してしまうとなると、少なからず寂しいという気持ちも出てくるのだろうか。私としてはいい加減弟離れして欲しいところではあるが。

結婚か、と今日の主役である新郎新婦に目を向ける。結婚を考えたことはなくはない。ただ、彼の仕事が忙しいし、何より彼はアイドルだ。結婚だなんて迷惑になりそうで自分から言いだすことはできなかった。彼からもそんな言葉は出ることがなくて、だらだらと関係を続けている。目の前の新婦の嬉しそうな顔を見て、うらやましいと思った気持ちは、やっぱり彼を考えると、飲み込むしかなかった。


式も終盤にかかり、つぎは花嫁のブーケトスらしい。私には関係ないと、隅で大人しくしていた。ちょっと行ってくると言って弟分の元に向かった彼も戻ってこないし、少しだけ肩みの狭い思いをしていたときだ。

「いた、もう、探しましたよ!」

目の前にいたのはブーケを持ったままの新婦。彼女は私の手を取ると、中央の周りから丸見えの位置に私を連れてくる。

「えっと?」
「次はね、あなたの番!」

戸惑う私に新婦はブーケを渡した。
何事、と、目を白黒させている間に、新婦の後ろから姿を現したのは、しばらく姿を消していた彼だった。

「遅くなったけど、俺たちも結婚しようか。返事は決まってるよねえ?」

彼は私に向けて手にしていた小さな箱を開く。中にはキラリと光る指輪が。
信じられなくて、指輪と彼に視線を往復させて、言葉より先に涙が出てきた。

「ほら、返事は?」
「はい、」

ほんとに小さな声だったけど、彼にはちゃんと聞こえていたようで、嬉しそうに笑いながら私を抱きしめた。



20181029
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