一体全体どういうことだろうか。みかは壁の向こうで繰り広げられている争奪戦をそっと覗き見ていた。
廊下のど真ん中で累を中心に北斗と大神が睨み合っている。いや、正確にいうと大神が一方的に絡んでいて、北斗は何か悩んでいるように腕を組んでいた。

「ちょっと、しつこいわよ」
「朔間さんが呼んだんだよ!俺様と来い!」
「大神、それは困る。俺も部長から広瀬先輩を呼んで来いと言われているからな」

みかが聞こえた来た声に耳を傾けると、どうやら二人とも先輩に言われ累を呼びに来たらしい。大神の方は零の無茶振りのような気もするが、北斗の方は確かだろう。
みかは困ったことになった。実はみかも宗から累を呼んでくるように言われていたのだ。しかし目の前の争奪戦に飛び込んでいけるほどの勇気はみかにはなかった。

「私はどっちにも行かないわよ。気分じゃないし」
「ふざけんな!アンタの気分なんて知らねえよ!」
「あんたの主人の方がよっぽど気分屋でしょうが。北斗の方の用事も今日じゃなくてもいいでしょう?」
「まあそうだが…しかし…」

どうやら累はどちらにも従う気は無いらしい。渉が呼んでいるのすら断るのだから、相当気分では無いのだろう。
そうだとしたら宗の誘いだって断るだろう、そう思ったみかは累に顔を見せることなく宗の元へ戻ろうとした。しかしタイミング悪く、みかのポケットからコロコロと飴玉がこぼれ落ちる。落としたままにするわけにいかないので、みかは素直に飴に手を伸ばした。すると、落ちた場所が廊下に出たところだったため、みかの体は壁の向こうへと出てしまった。

「あら、みか」

そして運悪く累に見つかってしまった。
累は二人を振り切るようにみかのほうへ来る。それに続いてまだ諦める気のない二人も付いて来た。

「あー…、こんにちは、累ねえ」
「話は終わってねえし、お前!脇から話に入ってくんじゃねえ!」

突然会話に加わって邪魔をして来たみかを大神は睨みつける。

「ちょっとみかをいじめるんじゃないわよ。ほんと躾のなってない犬ねえ」
「狼だって言ってんだろ!!」
「こんなところにどうしたの?また校内バイトでもしてたの?」
「無視すんな!」

累は大神を無視してみかに話しかける。
みかはその返答に戸惑い視線をうろうろさせ、ちらりと累を見てすぐ外した。
それを見た累は眉をひそめる。

「もしかして宗まで私を呼んでるわけ?」
「あっいや、あんなあ累ねえ」

みかは必死に言い訳を探すが何も出てこない。

「全く揃いも揃ってなんなのかしら」
「ごめんなあ累ねえ」
「いいわよ、みかは悪くないし」
「しかし困ったことになったな。三人も広瀬先輩を読んでいるとなると優先順位を考えなければならないか」
「悪いけど行かないわよ」
「しかし部長に必ずと言われてしまったんだが…」

俄然として誘いを拒否する累。
そんな累に大神はついに痺れを切らした。

「いいから来いよ!」

大神が思い切り累の腕を引っ張る。

「無理やりは行けないだろう、大神」

北斗が逆の手を引いて累が無理やり連れて行くのをを阻止した。
大神と北斗、二人に両腕を捕らえられた累はどの方向にも逃げることができなくなる。

そんな累を見てみかはもやもやとした感情を覚えた。この中で一番仲の良い後輩は自分だと思うから、だからこそ、この二人に累を取られのがなんだか嫌で仕方がなかった。

「累ねえ俺と一緒に来てくれへんの?」

いつも控えめなみかだったが、こらえきれず累の制服の背を引いた。

それに驚いた累だが、次第にそれは怒りに変わっていく。それは今目の前にいる三人にではなく、大元の奇人たちにだ。
わざわざ人を使って呼び出さずとも自分たちで来ればいいだろうに。

「…いいわ、順番に行ってあげる」

累は腹をくくったのかそう言って三人の方を向いた。その顔には笑顔が貼り付けられている。

「直接文句言ってやるわ。さあ、誰から行くの?」

その笑顔の瞳の奥が笑っていないことに三人は思わず後ずさりしてしまうのだった。



20171024
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