※熱を出す話と言いながらただの風邪です


累は失礼しますと声をかけて保健室の扉を開ける。その一言だけだったはずなのに頭の中に響いてまたずきりと痛んだ。
風邪をひいたのか朝から頭痛がした。しかし多少の頭痛であるし学校を休むほどではないだろうと軽視して登校したものの、時間を追うごとに増してきた頭痛にこうして保健室を訪れたわけだ。

「お〜珍しいな広瀬がここに来るなんて」
「佐賀美先生は相変わらずですね」

白衣を着崩した保険医に呆れつつ累は部屋の中に足を進めた。

「ベッドを借りてもいいですか?」
「大丈夫か?しんどいなら病院行った方がいいと思うけど」
「ただの頭痛なので寝てれば治るかと」
「貸したいのは山々なんだがな。見ての通り満員だ」

佐賀美が指差す通り、保健室のベッド全てカーテンで締め切られ利用中となっていた。どうせ大半がサボりだろうが、体調が悪いから譲れなんてお願いするのはは累のプライド的に許さなかった。そんなことするくらいなら無理やり授業を受けてみせる。

「仕方ないので次の時間にまたきます」
「いやいや、顔色悪いけど。あ、そういや一番左なら代わってくれんじゃないか?お前ら仲良いし」

佐賀美はそう言って視線を左端のカーテンに向けた。さて、累と仲が良い、といえば五奇人か薫である。しかし薫は朝からきていないのを確認済みだ。それから渉は保健室と縁がなさそうだし、夏目はここに来るくらいなら秘密の部屋へと行くだろう。宗も同じく手芸部の部室にでも行くと思う。奏汰は噴水でぷかぷかしているのを見た。頭痛が治ったら様子を見に行かなければと思っている。
このことから導き出される、累と仲が良い人物、といえば。

累は足早に締め切られたカーテンへ近づくと勢いよく開けた。

「チッ、なんだよ」
「今すぐどいて」

容赦無く冷たい言葉を浴びせた相手は言わずもがな、零である。寝ていたのか起こされて心底不機嫌そうに累を睨みつける零。しかし累はそれを諸共せずもう一度、

「どいて」

と言い放った。
それに苛ついた零は累の腕を引っ張り、自分の上に覆いかぶさるようにさせた。
いつもならこのあと累の抵抗が入る。しかし頭痛を抱える累にそんな余裕はなかった。
ころりと零の隣に寝転がると、目線だけでどけと訴えてきた。話すこともままならないほど頭痛が激しいようだ。
いつもあれだけ強気な累が弱っている姿に零は驚いて固まる。累はそれに文句の一つでも言ってやりたかったが、それももう難しい。頭痛はどんどん増して行くばかりで、一刻も早く休みたかった。累は最後の力で零をベッドから追い出し、最後に一睨みして布団をかぶると目を閉じてしまった。






それから少し経って。
累のベッドのカーテンが開いた。そしてカーテンを開いた人物は呆れたように息を吐いた。

「奏汰兄さんなにしてるノ」
「るいを まもっているんですよ〜」
「それのどこが累姉さんを守ることにつながるんだイ?むしろ襲ってるように見えるけド」
「む、しつれい ですよ。これは 『そいね』 です」

そう言って累と同じ布団から顔を出している奏汰は頬を膨らませた。

「まあ確かにこんなところで寝てたラいつ誰に襲われるかわかったもんじゃないけド。それと奏汰兄さんが添い寝することは別じゃなイ?」

確かに累の外見上、学院内で一人で寝ると言うのは危険な行為だった。現にこれまでも何人か累に襲いかかり、返り討ちにあっているのだ。
いくら保健室といえど、ここの保健医はよく保健室を開けたりするし今の累の体調を考えると信頼のおける誰かが側にいた方が良い。その役目を買って出たのが零から一番はじめに話を聞いた奏汰であった。
だからといって奏汰が累と添い寝する必要は、夏目の言う通りない。

「なっちゃんうらやましいんですか?」
「それはなイ」

独特の笑い声をあげながらからかってくる奏汰にため息をつきながらベッドサイドに腰掛ける夏目。

「んん…」

二人の声に目が覚めたのか、小さく身動いで累が薄く目を開けた。それから左右に視線を巡らせて奏汰と夏目の姿を確認する。

「なにしたの、あんたたち」
「なっちゃんが『そいね』したいらしいですよ〜」
「チョット、そんなこと言ってないでショ」
「んー、添い寝?」

累の視線が夏目を捉える。まだ眠いのか、ぼんやりとした表情で夏目を見つめた。夏目は累に弱い。特にこういった普段見せないようなクールでも可愛いでもない、眠気で色気たっぷりの累には一等弱い。

油断していた夏目は近づいてきた累の手に気づかなかった。

「累姉さん!?」

夏目の手を掴んだ累はそのまま夏目を布団の中へひきづり込もうとした。それは上手くは行かなかったのだが、引っ張られた夏目はバランスを崩して累の上に倒れた。そう、それはまるで累を押し倒しているかのように。

「わ〜なっちゃんだいたんですね〜」
「奏汰兄さんからかわないでくれるかナ!」
「うるさいわねえ頭に響くから黙ってちょうだい」
「いやでモ」
「寝たいなら寝ればいいじゃない」

寝ぼけているのかぐいぐいと夏目の腕を引っ張る累。奏汰は面白そうにクスクスと笑って助けてくれそうにない。

「わかった、ボクの負けだよ累姉さん」
「わーい、みんなでなかよく『おひるね』です」

一つのベッドに男三人がみっちりと収まる。保 健室はクーラーが効いているから暑くはなかった。
むしろ心地の良い暖かさに、おやすみと呟いて夏目は目を閉じた。



20171004
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