その日累はたまたまその公園を通りがかった。ほんとにたまたまである。きゃっきゃと子供達の声に惹かれるまま視線を公園内に向けると、一人の男を取り囲んで子供達が楽しそうに笑っていた。男も嬉しそうに笑い、戦隊モノのポーズをとっている。その男に累は見覚えがあった。確か自分と同じ学年に在籍していた気がする。名前は覚えていなかった。他人に興味のない累らしい。確か奏汰と仲よかった気がする、ぼんやりと思い出したときだった。

それはもうばっちりと目が合ってしまった。
男はキラキラと太陽に負けない笑顔で、

「おお!ちょうどいいところに!みんな、ピンクが来てくれたぞ!」

そう子供達に声をかけた。するとその声に累のまわりに子供が駆け寄ってくる。どうやら男の方は累のことを知っているようだ。
思わず眉間に皺がよる累。いや、決して子供が嫌いというわけではない。変な事に巻き込まれたという事に対して不快感を感じただけだ。その巻き込んだ張本人は楽しそうに笑っている。正直ぶん殴ってやりたいのだが、子供がいる手前なんとか右手を収めた。

「おおっと手荒に扱ってはいけないぞ!ピンクはなあ、お姫様なんだ!自分の国を守るために戦っているんだぞ!」
「おねえちゃんお姫様なの〜?」

よくわからない設定をつけられてそれを鵜呑みにした子供がキラキラとした目で累を見つめる。
その視線を無垢にはできない累はニッコリと営業スマイルを浮かべて、

「そうよ、私も自分の国の平和を守るためにレッドと悪者を倒しているの」

と言った。
内心はあの男を殴りたい気持ちでいっぱいだった。

それから子供達が帰るまで絡まれ続けた累。バイバーイと元気よく手を振る子供達を見送ってようやく解放された時には笑顔が引きつっていた。

「いっ、たい、なん、の、つもりよ!」

ずんずんと男に詰め寄りながら怒りをあらわにする累。男は累の勢いに苦笑いを浮かべながら後退していく。

「うおっ、落ち着ついてくれ!」
「落ち着いてられるわけないでしょう?」
「子供達も喜んでいたしいいじゃないか!」
「それとこれとは別よ」
「ああ、そういえば自己紹介をしていなかったな!俺は正義を守るヒーロー流星レッド、守沢千秋だ!」
「話を変えないでくれない?」
「広瀬のことはよく知っているぞ!前から話して見たいと思っていてな!思わず声をかけたわけだ!」
「いい迷惑よ!」

マイペースに会話を進めていく千秋に累は翻弄されるばかりだった。やはりこの男一発殴っておくべきかと思う。
いや、それよりいいことを思いついた。奏汰のチョップでお仕置きしてもらう方がいい。あれはすごく痛い。累も食らったことがあるがほんとに痛いのだ。

そうと決まれば累がここへ留まる理由もない。それに、これ以上千秋の側に居たくなかった。はっはっはっと何が楽しいのか笑っている彼は暑苦しい、その一言に尽きる。

「お?どこへ行くんだ?」
「帰るのよ」
「そうか、では送ろう」
「いらないわ」
「正義のヒーローとしては女の子を一人で帰すわけにはいかないからな!」
「結構よ」
「ああでも、広瀬は男か!いやでも見た目が女の子だからな、誰かに襲われたらかなわん。送ろう」
「話を聞きなさい!」

その後累は千秋に翻弄されたまま帰路につくことになる。
そしてとても珍しいことに、他人に興味のない累の頭に守沢千秋という名前がうるさいやつとして刻まれたのだった。
後日、奏汰から千秋へとチョップがお見舞いされたことに関して絡まれるのはまた別の話である。



20170814
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -