目の前に並ぶ調理器具と小麦粉やバターなどの材料。それを囲うように五奇人たちと、そして累がいた。

「さあ、始めましょうか!」
「ちょっと待っておかしくない?」
「なにがです?」

口火を切った渉は累の問いかけにきょとんとした顔で首を傾げてみせる。わざとらしいそれに累は苛立ちを感じながらももう一度質問した。

「どうして今からケーキなんてつくるわけ?」
「それは累の誕生日だからですよ!」
「当事者なのに参加するってどういうことよ」
「だって累ねえさんだけ仲間はずれじゃかわいそうでしょウ?」
「みんなでなかよくしましょ〜」

左側を奏汰、右側を夏目に固められ累はウッと言葉を詰まらせる。累はこの二人に弱い節がある。それを二人とも理解してこうして何かあると累に擦り寄るのだ。そしてだいたい累が負けるのがいつものパターンである。

「わかったわよ!もう!」

半ば投げやりに累がそう言うと、奏汰と夏目は顔を見合わせてにやにやと笑うのだった。

この時参加することを決めてよかったと累は後から思うことをまだ知らない。




「奏汰…その手にあるのはなに?」
「おさかなさん」
「まさかそれを入れようとしてた?」
「もちろんです〜」

屈託のない笑顔で答えた奏汰にすっと冷めた顔をした累は奏汰の手から魚をとり、作業してるスペースから離れたところに置いた。それから奏汰の背を押して空いた椅子に座るように促した。

「いい?おとなしく座ってて」
「むう」
「お魚は後で私が何か作ってあげるから」

ぷうと頬を膨らませる奏汰にはあとため息を吐く累。一応ここでおとなしくしてくれるようではある。しかしこうなると後からご機嫌取りが大変なのは何度も経験している。
累は気が重くなるのを感じながら、とりあえず作業に戻ろうと視線を戻した。

「………」

今日の中で一番冷たい目を向けた累はゆっくりと"それ"に近づいた。そしてむくむくと湧き上がる苛立ちを全てぶつけるように思いっきり"それ"の後頭部をひっぱたいた。

「ってえな何しやがんだ!!」
「なんで手伝いもしないくせにケーキに使うイチゴを食べてるのよ!」

累は目の前のそれ…否、零の前からいちごのトレイを取り上げる。ケーキに使う分としては十分残っているが、問題はそこではない。

「うるせ〜な」
「ちょっとこれ以上食べないでよね…っんむ」

零はあろうことか怒る累の口にいちごを放り込んだ。口の中に程よい酸味と甘みが広がる。

「これで共犯だろ?」

零はそう言って笑うが、それは累にとっては逆効果だった。ぷっつりと堪忍袋の緒が切れた累は無言で零を椅子から引きずり下ろし、奏汰が待機するとなりの椅子まで連れて行く。それから無言のままピシッと椅子を指差した。

「いつものことですけどれいはるいをおこらせるのがとくいですね〜。それともかまってほしいんですか〜」

奏汰の言葉に零は舌打ちする。当たらずとも遠からず、零は累のことを弄りたくて仕方ない。つまりかまってほしいととってもいいだろう。

「すなおになればいいのにいつもいたずらばかりしてきらわれてもしらないですよ」
「おい、奏汰。俺に八つ当たりするのはやめろ」

どうやら奏汰は未だにご機嫌斜めのようだった。にこにこと笑いながら淡々と零に毒を吐き続ける。

「ちょうどいいわ。二人でたっぷりお話ししてなさい」

累は今のうちだと思い、二人から離れる。後ろから零が文句を言う声が聞こえた気がするが累の耳はそれを遮断した。

「累ねえさんが二人の相手をしている間に生地はできたヨ」

調理場へと戻ってきた累に夏目が声をかける。

「僕の方もできたのだよ」

同じく宗も手元のボウルの生クリームを累に見せながら声をかけてきた。

「珍しいわね宗が参加するなんて」
「変なものを食べさせられるより自分で作った方が安心だろう」
「たしかにね」

先ほどの奏汰の一件もあるため、宗の言い分は最もである。

「生クリームはとりあえず冷蔵庫に閉まって、生地は型に入れてくれる?」
「了解だヨ。あ、そうそう。師匠の方もできそうだったから見てあげテ」

夏目はそう言い残して作業していた場所に戻っていった。
生地は夏目、生クリームは宗、そして累はフルーツを切っていたのだが、渉は果たして何をしていたのだろう。またあの二人みたいにおかしなことをしていたら隔離しなければと渉の作業している場所へ足を進めた累。
そして渉の手元を見て驚いた。

「それ、私?」
「マジパンでお作りしました!良くできているでしょう!」

まるで子供が自分の作った作品を見せるようにニコニコと笑顔で答える渉。その手元には赤と白を基調とした衣装を着る累だと思われる人の形のマジパン細工があった。実はその衣装は先日宗が作った六人揃いの衣装だったりする。それが分かるように細かく作り込まれていて、累はまじまじと観察してしまった。

「驚き過ぎて声を出ませんか?」

嬉しそうに渉が声をかける。
累はふわりと笑って、

「ええ、そうね。でも欲を言っていいなら…一人じゃ寂しいわ」

そう言ってその場を離れた。

「我らが姫の仰せのままに…☆」

そう言って渉が累をかたどったマジパンの上に手をかざす。その手が外れるとそこには、累を囲うように奇人たちが現れていた。



20180408
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