しばらく道を進んで行くと、開けたところに出ました。そこには大きな長机が一つとその上には様々な種類のクロワッサンが並べられていました。椅子は三つ用意されており、そのうち二つは埋まっていました。一つはシルクハットを被り、ティーポットで紅茶を入れている宗が座り、もう一つは茶色のウサギ耳をつけたみかが座っていました。
おそらく宗は帽子屋で、みかは三月ウサギでしょう。どうやら累はvalkyrieのおかしなお茶会に迷い込んでしまったようでした。

「んあ?お客さん?」
「誰でもいいが突っ立っていないで席につきたまえ。せっかくのパーティーの景観を損ねる」

宗は累には目も向けずに手元のティーポットからカップに紅茶を注ぎながらそう告げました。

「こんにちは。どこから来たん?」
「あの道をまっすぐ歩いて来たのよ」
「道?そんなのあらへんで」

みかの言葉に累は来たはずの道がある方を振り向きました。しかしそこには木が生えているばかり。道なんかどこにもありませんでした。
夢だと思っている累は、

「本当に不思議、」

とだけ呟いて特に気にした様子もなく、パーティーに意識を戻しました。

「こんなところでなんのパーティーなの?」
「さあ?僕にもわからない。ただ、やれと言われたからやっているだけだ」
「そうそう、そして迷い込んで来るアリスを待てって…もしかしてお姉さんがアリスやったりする?」
「そうね、私がアリスみたいよ」
「だとしたら哀れだな」

宗の言葉に累はむっとします。何故可哀想だなんて思われなければいけないのか累にはわかりませんでしたし、そう思われたくもありませんでした。

「意味がわからないわよ」
「まんまと罠にハマったわけだ」
「どういうこと?」
「ハートの王様がアリスのことを探しててなあ、俺たちは足止めするためにいるんやで」
「三月ウサギ!貴様は喋りすぎだ!」
「んあ、お師さんごめんなあ」

宗に怒られたみかはしゅんとしてしまいました。
しかし、みかのおかげで累は急いでここから逃げなければいけないということに気がつきました。

もし、ハートの王様をやるとしたらきっと彼しかいません。累は絶対に彼に会いたくありませんでした。
しかしここからどうやって出ればいいのでしょうか。来た道は消えてしまいました。

「困ったわ」

累が頭を抱えていた時です。かたりと目の前に置いてあったティーポットの蓋が音を立てました。それからそーっと顔を出したのはネズミの耳をつけたなずなでした。

「なずな?」

彼はティーポットから出てくると、累のことを手招きします。
小さな彼を目線で追うと向かった先には一本の道ができていました。

「フンッ、眠りねずみの優しさに助けられたな」

宗はそう言ってそっぽを向きながら紅茶に口をつけました。
どうやら逃がしてくれるようです。

「元より足止めに協力することに承諾したつもりはないのでな。勝手にするがいい」
「ふふ、気をつけてなアリス」
「ええ、ありがとう」

宗が素直でないことは今に始まったことではありません。累はありがたく好意を受け取って、大きく手を振るみかに見送られながら、なずなの後を追いました。


20170219
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -